米国務省は世界の信教の自由に関する報告書を公表し、中国政府が新疆ウイグル自治区のイスラム教徒をはじめ宗教を理由に投獄した推定人数が年間最大1万人以上に上るなど深刻な人権侵害が続いていることを非難した。また、日本での世界平和統一家庭連合(家庭連合)に対する政府の解散命令請求に注目し、信教の自由の重要性を強調している。
共産党に忠誠誓わされる
中国ではイスラム教徒であるウイグル人のほかにもチベット仏教徒であるチベット人、キリスト教徒、法倫功学習者たちに対して当局の厳しい監視と宗教弾圧が行われている。新疆ウイグルではウイグル人の強制収容施設への収監、強制労働などが指摘されており、国連の報告書でも「人道に対する罪」の可能性があると深刻視されていた。
また米国務省の報告書は、中国では共産党政権が「宗教の中国化」を進め、僧院、教会、モスク、寺院などの「宗教活動の場」で共産党を支持するようにする行政措置が取られていると指摘した。国が認可した宗教団体だけが活動を許され、その際、共産党政権に忠誠を誓わされ、宗教を利用した外国勢力の侵入に抵抗することが義務付けられるという。米国は中国に対し、公式に信教の自由侵害への懸念を伝えていると強調した。
宗教には世俗を超越した教義や信仰対象、教祖が存在するものであり、そこに信教の自由の重要性がある。しかし、ここに国家が強権を用いて介入するほど宗教の教えの本質を歪(ゆが)めることになる。国が許可しない宗教を信じた人々が容赦なく拘束されてしまうとは、恐ろしい社会である。
一方、米国務省報告は日本について筆頭に政府が家庭連合に解散命令請求を行った問題を取り上げた。政府が法解釈を変更して解散命令を請求した経緯と理由、家庭連合側の反論や、解散命令請求を問題視する法律家や国際人権団体の意見などを両論併記している。
また国会議員のヒアリングなどで、いわゆる「宗教2世」が、エホバの証人が子供に宗教活動を強制しているなどの批判を行ったことを取り上げ、エホバの証人側は米大使館にマスコミで元信者の証言に基づく不平等で歪曲(わいきょく)した報道が続いたと主張したと報告している。
国家の宗教への介入は、中国のような共産主義国家だけの問題ではない。家庭連合やエホバの証人についての世論は、被害を訴えた元信者側弁護士の情報に偏向していると言えないか。
米国務省は「在日米大使館は、家庭連合とエホバの証人を取り巻く問題を注意深く監視」しており、日本の国会議員、政府当局者、教団の影響を受ける人々、教団代表者らと連絡を取り合い、「あらゆる場面で信教の自由の重要性を強調した」と明記している。
民主主義国の日本も注視
かつて欧州でユダヤ教徒に対する排斥感情を利用し、選挙で政権に就いたのが国民社会主義ドイツ労働者党(ナチス)だった。大衆感情が政治を狂わす例だ。報告書で民主主義国の日本についても信教の自由を巡る問題が注視される所以(ゆえん)であろう。