英下院の総選挙で労働党が地滑り的大勝を収め、14年ぶりに労働党政権が誕生した。政権は交代しても外交路線で大きな変化はないとみられるが、日本はこれまで以上に関係強化に努める必要がある。
労働党が総選挙で大勝
労働党の大勝は大方の予想通りだった。それほど、英国民の保守党政権への批判、不満が鬱積(うっせき)していた。コロナ禍の中でジョンソン政権のスキャンダルがあり、最近では物価高騰、不法移民問題などに直面していた。
劣勢が予想される中、解散総選挙の賭けに出たスナク前首相だった。しかし、選挙戦の最中、フランスで開かれたノルマンディー上陸作戦80年の記念式典を途中退席して帰国し、国民から厳しい非難を浴びた。
これに対し、新首相に就任した労働党のスターマー党首は「チェンジ(変化)」を選挙で訴えた。その一方で、政策面では基幹産業の国有化など急進路線を改め、穏健な現実路線を進めて国民の支持を回復した。
今回の選挙は、労働党の勝利という以上に保守党の自滅との見方が強い。敵失による勝利の側面が大きいだけに、今後、新政権の物価対策や不法難民問題での実績が問われてこよう。
スターマー新政権は、外交路線では基本的に保守党政権の方針を踏襲するとみられ、大きな変化はなさそうだ。ウクライナへの軍事支援も継続される。
欧州連合(EU)への復帰はないものの、ぎくしゃくした関係の改善を進める。貿易の円滑化、そしてロシアを含む「共通の脅威」に対処するための新安全保障協定の締結などに乗り出す方針を表明している。ロシアのウクライナ侵攻が長期化する中で、英政権がEUとの関係強化を目指すのは、地域の安定に寄与するものだ。
保守党政権の「インド太平洋地域への傾斜」構想に、労働党は当初批判的だった。しかし、中国の覇権主義的な動きへの警戒から方針を修正。日本やインド太平洋地域との関係は引き続き重視するとみられる。日本、イタリアとの次期戦闘機の共同開発も継続される見込みだ。
対中関係では、挑戦・競争しつつ可能な分野では協力を模索するとしている。基本的には保守党政権の対中政策と変わらないが、労働党内には中国との協力をより進めるべきだと考える政治家もいる。中国は英国の政権交代を冷めた両国関係を修復する好機と捉え、外交攻勢を仕掛けてくる可能性が高い。
それと対抗するためにも、日本は保守党政権時代に緊密になった英国との関係をより強固なものとする外交努力が必要となる。2021年に、英空母「クイーン・エリザベス」が横須賀に初入港した。日英の防衛協力深化など、英国がインド太平洋への関与をより強めるための枠組みも模索すべきである。
創造的な協力に期待
天皇、皇后両陛下の御訪英で、両国の特別な関係が確認された。経済はもちろん、環境問題、人道問題、文化、芸術などでも、両国は他の国とは違った創造的な協力関係が期待できる。政権交代によってそれが影響される可能性は少ない。協力関係のさらなる深化を模索したい。