大規模災害や感染症の蔓延(まんえん)などの非常事態が発生した際、国が自治体に必要な指示を行えることを盛り込んだ改正地方自治法が先の通常国会で成立した。今ある個別の法律では対応できないような「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」が起こった場合、国が先頭に立ち対応できるようになる。
想定外の事態で国が指示
新型コロナウイルスの感染拡大初期、横浜港沖で停泊中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で集団感染が発生した際には、国の権限について定める法律がなく自治体間の調整などが難航した。厚生労働省によると「ダイヤモンド・プリンセス」では3711人の乗客乗員のうち712人が感染、14人が亡くなった。
これだけの患者を横浜市や神奈川県だけで受け入れることは困難だ。最終的には法的根拠があいまいなまま国が市に代わって対応した。人命が関わる事態で混乱を生じさせない体制を整えることは極めて重要である。
国と地方との関係は、2000年に地方分権一括法が施行され、それまでの「上下・主従」から「対等・協力」なものになった。今回の改正によって対等な関係が損なわれるとの懸念の声もあったが、新たに盛り込まれた「指示」はあくまでも特例措置だ。
自治体が個別法に従って対処するという原則は変わらない。それでもカバーできない想定外の事態が発生した際に閣議決定を経て国が指示権を発動することになる。乱用を防ぐために国会への事後報告を義務付け、指示の際には自治体に意見を求めるよう努めることも定められている。
国民の生命と安全を守るため、法の穴を埋めておくことは必要不可欠だ。一方で、最も重要なのは平時から法整備を含むできる限りの備えをしておくことである。わが国では近い将来、南海トラフ地震や首都直下地震が高い確率で発生すると予測されている。コロナ禍では、地震や台風、豪雨などの自然災害と感染症の感染拡大が同時に発生する複合災害への危機意識も叫ばれた。
わが国周辺の国際情勢も緊迫化している。国際社会では軍事力だけでなく非軍事力も組み合わせた「ハイブリッド戦争」が一般化しており、多角的な防衛体制の整備が喫緊の課題になっている。有事の際には、国と自治体がスムーズに協力して対応に当たれるよう、日ごろから危機感を持って連携を強化しておく必要がある。
サイバー対策も義務付け
このほか、自治体ごとにサイバー攻撃への備えや情報漏洩(ろうえい)防止といったサイバーセキュリティーを強化するための基本方針を策定し、公表することも義務付けられた。すでに策定している自治体にも改めて見直すよう求める。
自治体やその業務委託先から個人情報が流出するケースが相次いでおり、原因としてサイバー攻撃による被害のほか、情報の取り扱いが不適切だったことや人的ミスによるものもある。住民の不安解消のためにも各自治体には迅速な策定、公表を求めたい。