子供と接する仕事をする人の性犯罪歴を確認する「日本版DBS」の創設を盛り込んだ児童対象性暴力防止法が6月に成立した。性暴力から子供を守るため、学校や保育所、児童養護施設などに犯罪歴の確認や職員研修などを義務付ける。
同法成立は一歩前進だが、子供の性被害根絶に向けて一層の取り組みが求められる。
家庭教師らは対象外
DBSは英国の「ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス」(前歴開示・前歴者就業制限機構)の略称だ。英国は2012年から導入しており、性犯罪の前歴のある人が子供と接する職業に就くことを禁じている。
日本版DBSは、学校などがこども家庭庁を通じて法務省に申請し、犯罪の有無を示した「確認書」を交付する仕組み。犯罪歴が確認された場合、就業希望者は採用せず、現職の教員らは子供と接しない仕事へ配置転換するといった対応を求める。26年度にも施行される。
対象となるのは、不同意わいせつ罪などの刑法犯のほか、痴漢や盗撮といった自治体の条例違反も含まれる。照会期間は、拘禁刑(現行の懲役刑、禁錮刑)が刑を終えてから20年、罰金刑以下は10年とした。
性被害の体験が子供の心身に与える影響は極めて深刻だ。幼い子供は自分が何をされたか認識できないが、成長して自分がされたことの意味が分かると「自分は汚れている」という思いにとらわれ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)になるケースも多い。子供の性被害防止に向け、日本版DBSの効果的な運用が求められる。
ただ、課題も残る。学習塾やスポーツクラブなどは任意の認定制度とし、認定を受けた事業者に限って性犯罪歴の確認を義務付けることとなった。個人事業主のベビーシッターや家庭教師らは対象外だ。しかし、学習塾の講師や家庭教師によるわいせつ事件も起きている。性犯罪の9割は初犯であり、犯歴がない人による性加害をいかに防止するかも大きな課題だ。
文部科学省は23年4月から、教員の採用時にわいせつ教員の情報を検索できるデータベースを稼働させている。だが、わいせつ行為で処分されて教員免許を失った元教員が、学習塾に就職して事件を起こすケースもある。子供と関わる全ての仕事を義務化の対象とすることも検討すべきだ。
不断の制度見直し進めよ
照会期間についても、例えばドイツでは14歳未満への性的虐待などで5年以上の拘禁刑を受けた場合は無期限となる。英国も児童への虐待や誘拐、性犯罪などの特定の犯罪に関しては無期限だ。
日本版DBSを巡っては、憲法で保障する職業選択の自由との兼ね合いも議論されたが、憲法条文には「公共の福祉に反しない限り」という文言がある。
こども家庭庁は施行後3年をめどに制度を見直す方針だ。弱者である子供を性暴力から守るための取り組みが、不徹底であってはならない。確認対象とする性犯罪の範囲拡大なども含め、不断の制度見直しを進める必要がある。