日米両政府が防衛装備品の共同開発・生産などを議論する「日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS)」を初めて開催した。共同生産を抑止力強化につなげるべきだ。
米軍の弾薬不足を補う
DICASは4月の日米首脳会談で設置することで合意。今回の会合では、防空ミサイルの共同生産や、米軍の艦艇と戦闘機の日本での整備など4分野について作業部会を設置することで一致した。
ミサイルに関しては、ウクライナ支援による米軍の弾薬不足を補うため、地対空誘導弾パトリオットの生産体制強化などが議題となる見通しだ。日本も台湾有事で戦闘を行う場合、現状では弾薬・ミサイル不足に陥りかねないと分析されている。共同生産で継戦能力の向上を図る必要がある。
これまで米本土やグアムを母港とする米海軍の艦船は、アジア周辺で展開していても本格的な整備のために定期的に本土の施設に戻る必要があった。しかし有事の際、こうした余裕はあるまい。日本では、横須賀を拠点とする米海軍第7艦隊の補給艦などを整備してきた実績がある。本土やグアムの艦船も日本で整備できれば抑止力を強化することも可能だ。
共同生産は国内の防衛産業支援にも結び付く。防衛分野の事業から撤退した企業は、この20年で100社超に上る。防衛産業の基盤が脆弱(ぜいじゃく)であれば、安全保障体制が不安定になりかねない。昨年6月に成立した防衛生産基盤強化法では、事業継続が困難になった企業の生産ラインを国有化し、別の企業に委託する仕組みを盛り込んでいるが、日米共同生産を防衛産業の活性化に生かすべきだ。
防衛装備品の生産を強化するのであれば、輸出の在り方の見直しも求められる。昨年12月の防衛装備移転三原則改定では、外国企業に特許料を支払って製造する「ライセンス生産」の武器・弾薬に関し、ライセンス元の国への完成品輸出と、第三国への条件付き移転を解禁した。
国際共同開発の装備品は、第三国への部品や技術の直接移転を容認。完成品も今年3月の運用指針改定で第三国輸出容認の方針を決めたが、当面は英国、イタリアと開発する次期戦闘機に限定された。もっと柔軟な運用をする必要がある。
かつての武器輸出三原則も、もともとは共産圏や国連決議で禁じられた国、紛争当事国やその恐れがある国への輸出は認めないというもので、輸出そのものを禁じたわけではなかった。ところが1976年、当時の三木政権が「輸出を慎む」として事実上の全面禁輸としたため、輸出には極めて厳しい制約がかかるようになった。
国力向上への戦略描け
防衛装備品の輸出が紛争を助長するというのは誤りだ。同盟国の米国や同志国への輸出で、民主主義陣営の安全保障強化を実現したい。
米国との共同生産を巡っては「日本は単なる下請けになる」との懸念も残る。岸田文雄首相は米国の意向に応えるだけでなく、共同生産の枠組みを日本の国力向上につなげる戦略を描くべきだ。