世界の核弾頭総数は2024年1月時点で1万2121発とするなど、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は各国が保有する核弾頭数について推計した年次報告書を発表した。総数は昨年より減少したが、中国や北朝鮮は保有する核弾頭を増やしており、ロシアは実戦配備数を増加したことから、脅威はむしろ高まっている。
ウクライナ侵攻で威嚇
核弾頭総数の約9割はロシアと米国とで占める。東西冷戦時代に超大国の米国とソ連が軍拡競争を続けたことから、世界の核弾頭総数は1986年にピークに達して約7万発を超えた。米ソ緊張関係が雪解けを迎え、89年に冷戦が終結して以降は減少に転じ、ソ連崩壊後のロシアと米国との間で核軍縮が進むことによりピーク時の4分の1以下になった。
しかし、米核専門誌「原子力科学者会報」が毎年人類滅亡の何分前かを予想する「世界終末時計」では、逆に核弾頭総数が大きく減少した今日、最も短い「1分30秒前」に迫っている。冷戦時代の84年当時は「3分前」、米ソ“雪解け”期に入った88年は「6分前」だった。
SIPRI年次報告の推計では、核弾頭総数は昨年より391発減った一方、中国は90発増やして500発、北朝鮮は20発増やして50発を保有しているとしている。また、ミサイルに搭載されるなど実戦配備された核弾頭は60発増えて3904発になったが、増加したうち半分以上の36発がロシアのものだ。
2022年2月のロシアによるウクライナ軍事侵攻で、ロシアは米国や欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国に対して核兵器使用の可能性を示唆する核威嚇をたびたび行うようになり、「終末時計」は23年に「1分30秒前」になった。冷戦時の「3分前」に戻ったのは、14年のロシアによるウクライナ・クリミア半島併合に際して、プーチン露大統領がやはり核兵器使用の可能性について発言し、“新冷戦”が意識されてからだ。ウクライナ侵攻後、ロシアは今年5月から戦場で使用する戦術核の軍事演習を開始した。
また、中国は他のどの国よりも核兵器を増強しており、今後10年までには核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)の保有数も米露と肩を並べるとみられている。さらに、北朝鮮は核兵器を軍事力の主軸として1年で倍に迫る増強を行っており、核兵器保有を誇示して威嚇を強めている。
中国は台湾の武力統一も辞さない姿勢を示しており、急速な核兵器増強は米国を牽制(けんせい)する狙いからだ。北朝鮮は1月に金正恩朝鮮労働党総書記が「韓国は第一の敵対国、不変の主敵」と述べており、朝鮮半島で戦争が勃発した際の核兵器先制使用の可能性に言及している。
米の拡大抑止を盤石に
核廃絶は極めて難しい情勢の中、存在する核兵器はあくまで防衛の最終手段に留(とど)めなければならない。
高まる中露朝の核兵器の脅威に対して、欧州やわが国など民主主義陣営は、米国との拡大抑止力を盤石にして対抗していくべきだ。