法的に「女性」になっても「父」――。性同一性障害で女性に性別変更後生まれた子との関係について、最高裁が初めて認定した。子の福祉を第一に考えるのは理解できるが、社会通念を超える判断だ。
こんな事態が生じたのは法の想定外のことが起きたからだ。生物学上の男性が女性に性別変更した後に凍結精子を使って子をもうけることは、性同一性障害特例法の趣旨に反するだけでなく、子の福祉と生命倫理の観点からあってはならない。
最高裁「子の利益」と判断
最高裁の判断は現に生まれた子の福祉を考えた個別のケースだ。これによって今後、同様の事態増加を招くようなことになっては、父は男性、母は女性という家族の大原則が崩れ社会に混乱が生じる。
最高裁大法廷は昨年秋、特例法の生殖不能要件について「違憲」判断を下している。同法を抜本的に改正するとともに、生殖補助医療の乱用を防ぐ法整備を急ぐ必要がある。
父子関係が認められたのは、性同一性障害で女性に性別変更した40代元男性と、その次女だ。変更したのは2018年11月。凍結していた精子を使って、変更前の同年夏に女性パートナー(30代)との間に長女、変更後の20年に次女をもうけた。
娘2人を原告、元男性を被告として認知を求めて提訴していた。一審の東京家裁は長女、次女とも元男性が性別変更したことを理由に請求を棄却。高裁は変更前に生まれた長女については父子関係を認めたが、変更後に生まれた次女に関しては訴えを退けた。
争点は、男性から女性に性別変更しても、血のつながりがある子とは父子関係が認められるかだった。最高裁は、親の性別変更によって関係を認知しないことは「子の福祉、利益に反する」として父子関係を認めた。
特例法は、性別違和で苦しむ人の救済が目的で、「未成年の子がいない」(子なし要件)、生殖能力を「永続的に欠く」(生殖不能要件)などの性別変更要件を設けている。家族制度に混乱が生じるからだが、最高裁は子なし要件を定めるのも子の福祉に対する配慮だとの解釈を示し、父子関係を認めない根拠にならないと判断した。
生殖補助医療の発達で現行法の想定外のことが起きることはこれまでにも指摘されていた。立法府が対応を怠ってきたことも「女性の父」という社会通念外の事態を生じさせたと言える。
生殖医療にも大きな問題
元男性の側や医療の問題点も指摘しておく必要がある。元男性は長女の認知を怠り、また生まれて間もなく性別変更している。子の福祉を考えれば、行ってはならないことだ。
また、医療機関が婚姻関係のないカップルに生殖補助医療を使い子を誕生させることは、生命倫理の観点から大きな問題である。レズビアン(女性同性愛)カップルが、第三者の精子を使い子をもうけることが現に行われている。こうして生まれた子が増えれば、同性婚の制度化を求める声も高めてしまう。生殖補助医療が家族秩序を乱すことのないよう法整備することも喫緊の課題だ。