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【社説】保護司制度 奉仕精神守る体制構築を

大津市で保護司の男性が殺害された事件を受け、法務省は保護司の安全確保策を強化する方向で動いている。保護司の奉仕精神を十分に生かすことのできる体制構築を求めたい。

殺人容疑で対象者を逮捕

事件では男性が担当していた保護観察中の無職の男が滋賀県警に逮捕された。男は容疑を否認しているが、自宅から男性宅に凶器を持ち込んだ可能性が高く、計画的な犯行とみられている。男が使用していたSNSのアカウントに、保護観察に対する不満と読める投稿があったことも判明した。保護司が保護観察の対象者だった人物に殺害されたケースは1964年にあったが、保護観察中は例がない。

保護司は対象者と定期的に面会し、立ち直りを支援する民間のボランティア。明治時代に静岡県の実業家らが宿泊所を提供するなどの支援を行ったことが始まりだ。

50年に制定された保護司法では、社会奉仕の精神を使命として無給での担当が定められた。殺害された男性も、レストランを経営しながら、保護司として20年近く活躍してきた。支援による負担は決して小さくないはずだが、それをボランティアで行うのは、奉仕精神にあふれた人でなければできないことだ。

ただ、現在は担い手不足が深刻になっている。2023年1月時点で約4万7000人が活動するが、保護司法が定める5万2500人の定数に届いていない。約8割が60歳以上で、高齢化も課題となっている。

総務省が19年に保護司に行った調査では、4人に1人が単独での対象者との面接に不安を覚えていた。これまでは保護司が対象者を自宅に招き、信頼関係を深めていくことが多かったが、最近は抵抗感を持つ人も増えている。保護司になることを希望しても、家族に自宅での面接を反対され、諦める例もあるという。

一方、犯罪白書によると、刑務所出所後2年以内に再犯で入所する「再入率」は21年、保護司らが支援する仮出所者が9・3%だったのに対し、保護観察の対象者とならない満期出所者は21・6%に上った。保護司の存在は更生に欠かせない。今回の事件で保護司制度が揺らぐことのないよう、実効性ある安全対策を講じるべきだ。

事件を受け、法務省は緊急の対応として保護司と対象者の関係を総点検するよう全国の保護観察所に通知した。必要に応じて①保護観察官の直接指導に変更②通常1人の担当保護司を複数指名――などの対応を取るよう求めている。また、安全確保策を保護司制度見直しに関する有識者検討会の議題に追加し、10月にまとめる最終報告に盛り込む方針だ。

不安払拭できる対策を

法務省が保護司の面接などのために整備した「更生保護サポートセンター」は、休日や夜間は閉鎖されるケースもあるため、使い勝手がよくないとの声も多い。こうした点も改善する必要がある。

保護司制度は国民の善意で支えられている。保護司の不安を払拭できるような対策を策定しなければならない。

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