トップオピニオン社説【社説】インド新政権 米中覇権争いのカギを握る

【社説】インド新政権 米中覇権争いのカギを握る

インドで総選挙の開票が行われた。結果はインド人民党(BJP)が中心の与党連合が過半数の議席を獲得し、モディ首相が勝利宣言した。

ただ、BJPは改選前から約60議席減らして単独では過半数を割り込み、勝利するも冷や水を浴びせられた格好だ。

ヒンズー至上主義に傾斜

モディ政権下でインドは高い経済成長を果たし、国内総生産(GDP)で現在の世界5位から日独を抜き去り、米中に次いで3位に浮上するのは時間の問題とされる。一方、経済格差や失業問題が深刻化したとする不満が、国民の多くが暮らす農村部を中心に選挙結果に表れた。

モディ氏は幼少期、父親の生業(なりわい)であった路傍でのチャイ売りを手伝っていた。この経験から相手が何を望んでいるか素早く読み取り、スピーディーに反応する能力を自然と身に付けたとされる。だが、こうした能力がポピュリズムにつながった部分はなかったか。今回の総選挙の結果は、モディ氏にそうした警鐘を鳴らした側面がある。

とりわけ懸念されるのは、モディ政権の「ヒンズー至上主義」への傾斜だ。モディ氏は国民の8割を占めるヒンズー教徒への優遇政策を取り、少数派のイスラム教徒は苦境にあえぐ。これではモディ氏が開票後に述べた「世界最大の民主主義の勝利だ」との言葉が空(むな)しく響くだけだ。少数派にも配慮する民主主義の精神と相いれないばかりか、そもそも心あるヒンズー教徒の多くは過激なヒンズー至上主義とは一線を画している温厚な人々だからだ。

ただ目を国際問題に転じると、西側社会は強いインドの到来を心待ちにしている。経済的低迷期に入ったとはいえ、中国の「赤い野心」は消えておらず、21世紀における世界の覇者が、これまで通り米国であり続けるのか、中国が取って代わるのか分水嶺(ぶんすいれい)に立とうとしている中、インドが軸足をどちらに置くかによって時代の趨勢(すうせい)が大きく変わる気配があるからだ。

ロシアはウクライナ侵略の早期決着シナリオが破綻し、戦争の泥沼に足を取られている。欧州もハンガリーが欧州連合(EU)内の対中強硬論と一線を画する姿勢を示すなど一枚岩ではない。米中覇権争いのカギを握るのは、インドと言っても過言ではない。ヒマラヤ山脈とインド洋に囲まれた地政学的要因から長く非同盟を掲げてきたインドが、これからどう安全保障を担保し、外交の舵(かじ)を切るのか注目される。

日印は強力な連携を

日米は南シナ海の軍事基地化など中国の強引な海洋進出を封じるため「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、インドとの関係に重点を置いてきた。バイデン米大統領が昨年、モディ氏を国賓としてワシントンに迎えたのもそうした背景があったからだ。

また日印関係は首脳年次相互訪問の実施などを通じ、加速度的に強化されつつある。さらにインドは、最大規模の円借款受け取り国だ。これからもわが国はインドを後押しするとともに、法による統治と自由で開かれた国際秩序が保たれるよう強力なタッグを組むべきだ。

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