シンガポールで開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ会合)には日米韓のほか中国を含め約40カ国が参加し、対話とは裏腹に威圧的な軍事演習や強引な海洋進出で周辺国と軋轢(あつれき)を生んでいる中国に対する厳しい認識は深まったと言える。日本は米国はじめ各国と連携し抑止力の強化を図るべきである。
董氏が演説で台湾威嚇
中国は「力による現状変更」を南シナ海、東シナ海で進めているが、董軍国防相は演説で、アジアにおける公平な国際秩序、安全保障の枠組みの必要性などを訴えた。アジアに位置する自国の立場を暗に強調し、在日・在韓米軍を配備する米国を外敵と捉えて追い出したいとの意図が透けて見えるとともに、中国がアジアの中心となる“華夷秩序”の復活を警戒せざるを得ない。
実際、中国はアジア地域で覇権主義を露(あら)わにしており、政治的な影響はインド洋のスリランカから、太平洋側のポリネシア、ミクロネシアの島嶼(とうしょ)国にも及んでいる。しかし、看過できないのは軍事力を背景として係争地の領土領海を実効支配しようとしていることだ。
南シナ海では殆(ほとん)どの海域を「領海」とする「九段線」を主張している。オランダ・ハーグの仲裁裁判所は「九段線」に歴史的根拠はないとの判断を示したが、中国は「紙切れ」と呼び捨てた。フィリピンは南シナ海のセカンド・トーマス礁で座礁させた艦艇に兵士を常駐させており、フィリピン側の小さな補給船に中国海警局の大きな公船が寄って集(たか)って激しく危険な妨害を繰り返している。
中国は、わが国に対しても沖縄県・尖閣諸島付近に公船を送り込んでいる。今月初め、尖閣周辺の領海との接続水域で中国海警局の公船が海上保安庁に確認される連続日数が163日となり、最長を更新した。
とりわけ軍事的威嚇を強めているのは、中国が「統一」を目論(もくろ)む台湾に対してだ。頼清徳総統就任に合わせて台湾を囲むように軍事演習を行っており、董氏は演説で台湾は独立を目指していると批判し、「台湾を中国から分離させようとする者は、必ずや粉々に打ち砕かれ、自らの破滅を招く」と述べ、武力行使をいとわぬ姿勢を示した。
危険なのは、中国が軍事行動に踏み出すことだ。周辺地域で日米韓が抑止力を強化して、中国の台湾攻撃の意図を阻む必要がある。
会議に合わせて木原稔防衛相、米国のオースティン国防長官、韓国の申源湜国防相が会談し、日米韓で陸海空、サイバー、宇宙にまたがる共同訓練を定例化し、今夏に第1回を開催することで合意したことや、日韓の防衛相がオーストラリアのマールズ国防相と会談し連携を確認したことは重要だ。
運命共同体の紐帯強めよ
特に日韓防衛相会談で、懸案のレーダー照射問題について再発防止文書をまとめて両国防衛交流の再開が決まったことから、協力関係の一層の進展を期待したい。3カ国とも民主主義政体で国内に与野党対立を抱えるが、時の政権に左右されない運命共同体として国家間の紐帯(ちゅうたい)を強めるべきだ。