6月から1人当たり所得税3万円と住民税1万円、計4万円の定額減税が始まる。「物価上昇を上回る所得増をより確実なものにする」と岸田文雄首相はアピールするが、仕組みが複雑で、経済効果にも不透明さが拭えない。誰のために実施するのか疑問の多い政策である。
仕組み複雑で効果不透明
物価高で影響を受ける国民生活を支援し、デフレ脱却を確実なものにするという狙いは、いい。対象も高額所得者は除き、年収2000万円以下の納税者やその配偶者らで約9500万人である。
だが、減税にこだわったため、納税額の違いにより、減税と給付を組み合わせた複雑な仕組みとなり、減税の実務を担う企業や自治体の事務作業が煩雑なものとなっている。
例えば給与所得者の場合、所得税は6月支給分の給料や賞与から控除されるが、納税額が低くて控除し切れなかった分は7月以降に差し引く。1年で控除し切れなければ、不足分を1万円単位に切り上げて支給する。
住民税は6月分を徴収せず、年間納税額から減税分を引いた金額を7月から来年5月にかけて毎月均等に徴収する。
また、住民税は課税しているが所得税が非課税の世帯には10万円を支給。どちらも非課税の世帯には、昨春の物価高対策に基づき既に支給した3万円に加え7万円を追加で給付する。
このように、納税額の違いにより減税のみ、減税と給付、給付のみなどといった複雑なものとなった。昨年末の減税決定から半年と準備期間も短く、しかも一度きりの減税に煩雑な事務作業を強いられる担当者からは不満の声が強い。
経済効果についても不透明な部分が多い。6月から、まず補助金の終了で電気・ガス料金が値上がりする。診療報酬も初診料、再診料とも引き上げられ、森林保全を目的とした森林環境税(1人当たり年間1000円、住民税に上乗せ)も始まる。ほかにも防衛増税や子ども・子育て支援金など今後の負担増を考えれば、消費より貯蓄に多くを回す可能性が高いからである。
もちろん、消費は低所得の人の方がより増やしやすい傾向にあるが、今回、所定の減税額に達するまで何回かに分けて控除するため、減額時期が分散されて減税の実感が薄いものとなり、給付金より消費増の効果が表れにくい面もある。
政府は約3兆3000億円の減税規模の半分程度が消費に回ると見込んでいるが、識者には1割から2割と厳しく見る向きが少なくない。
労多くして益少なし
本紙は昨年11月6日付社説で「減税やめて給付に一本化を」と訴えた。給付の方が明らかに簡単で実感の伴うものであるのに、なぜ政府が減税にこだわったのか強い疑念を抱かせる。
巷間(こうかん)、岸田首相が「増税メガネ」と呼ばれたことに過剰反応したためと言われる。所得税減税額の給与明細への明記義務付けも、それをうかがわせるが、真偽はともかく、今回の定額減税は「労多くして益少なし」の典型であり、誰の、何のための政策か分からなくなっている。政府には猛省を望みたい。