川勝平太前知事の辞職に伴う静岡県知事選で、立憲民主、国民民主両党が推薦する前浜松市長の鈴木康友氏が、自民推薦で県副知事を務めた元総務官僚の大村慎一氏らを破って初当選を果たした。鈴木氏は、県が認めていないリニア中央新幹線静岡工区の着工について「課題を克服して前進させる」としていた。一日も早いリニア開業に向けて国やJR東海と協力すべきだ。
34年以降にずれ込む
リニアは新幹線の約2倍の速さで東京・品川-名古屋間を40分、品川-大阪間を67分で結ぶ。品川-名古屋間が開業すれば、移動時間の短縮や企業の生産性向上で10兆円超の経済効果が生まれると試算されている。南海トラフ地震などの大規模災害に備え、東海道新幹線のバイパスをつくる意味合いもある。
しかし川勝氏は、県内を流れる大井川の水量減少や環境への影響を懸念し、静岡工区の着工を認めてこなかった。昨年12月に国土交通省の有識者会議が「環境への影響を最小化することが適切だ」とする報告書を取りまとめた後も反対を続けた。
JR東海は今年3月、品川-名古屋間について、目標としてきた2027年開業を断念する方針を示した。新たな目標時期は34年以降にずれ込む公算が大きい。開業が延期されたことは残念だ。静岡以外の工区でも工事の遅れが生じており、JR東海は明確な開業見通しを早期に明らかにする必要がある。
川勝氏は今年4月の新規採用職員への訓示が「職業差別」と批判を受けて辞職。事実上の与野党対決となった知事選だが、リニアに関しては鈴木、大村両氏とも、大井川の水資源確保や南アルプスの生態系保全を条件に推進する姿勢を示していた。
選挙期間中には、トンネル掘削工事をしている岐阜県内で井戸などの水位低下が確認され、JR東海が工事を中断する事態も生じている。環境面で懸念が残る中、リニア開業に向け、国やJR東海と共に課題を乗り越えていけるかが問われよう。
静岡県内にリニアの駅は設置されない。ただリニアが開通すれば新幹線に余力が生まれるため、県内での停車回数を1・5倍に増やせるとの試算もある。リニア開業はまだ先のこととはいえ、鈴木氏には新幹線の停車増加を地域活性化につなげるビジョンも求められよう。
リニアの「超電導技術」は、世界各国が開発競争を進める核融合発電にも用いられる。核融合は水素の原子核同士の結合によって膨大なエネルギーを得る仕組みで、次世代エネルギーとして期待されている。核融合発電の実用化を目指す上でもリニア開業は重要だ。
首相は深刻に受け止めよ
一方、自民は4月の衆院3補選に続く敗北となった。自民派閥の裏金事件などの影響によるもので、岸田文雄首相の受けたダメージは大きい。政権運営が厳しさを増すのは必至だ。
21年4月には当時の菅義偉首相が衆参3補選・再選挙で不戦敗を含めて全敗し、8月には地元の横浜市長選でも敗れたことで9月の自民党総裁選では不出馬に追い込まれた例もある。岸田首相は選挙結果を深刻に受け止めなければならない。