中国軍で対台湾作戦を担う東部戦区が、台湾を取り囲む形で大規模な統合演習を行った。台湾の頼清徳総統が就任式で中台統一を明確に拒否する発言をしたことに反発したものだが、台湾への脅しで地域の緊張を高めることは断じて容認できない。
離島奪取の構え見せる
演習は、軍用機や艦艇などによる「統合的な作戦遂行能力」を確認するため、台湾海峡と台湾本島の北部、南部、東部の周辺で実施。陸海空軍のほか、ミサイルを扱うロケット軍が参加した。港湾封鎖で台湾のエネルギー輸入を阻止するとともに、米国や同盟国の支援ルートを断ち切るための訓練だ。米台の軍事的協力を強く牽制(けんせい)することが狙いだろう。
頼氏は就任演説で「中華民国(台湾)と中華人民共和国は互いに隷属しない」と明言。中国の習近平政権は頼氏を「頑固な独立派」と敵視し、中台が別々の国だとする「二国論」を展開したと批判している。
「一つの中国」原則を掲げる習政権は、台湾統一へ武力行使も辞さないとしている。今回の大規模演習もこうした意思の表れと言えよう。しかし台湾の人たちのほとんどは、独立でも統一でもない「現状維持」を望んでいる。こうした台湾の民意を踏みにじることは許されない。
警戒すべきは、台湾が実効支配する金門島など中国大陸に近い離島の周辺でも演習が行われたことだ。海上警備を担う中国海警局も、離島沖で艦隊の訓練を実施した。金門島沿岸では5月に入ってから海警船が数回にわたって隊列を組んで航行している。離島を奪取する構えを見せることで頼政権への威圧を強める動きだ。
海警局は2018年7月、軍の最高指導機関、中央軍事委員会の指揮下にある人民武装警察部隊に移管され、軍との合同訓練を重ねてきた。沖縄県・尖閣諸島沖の領海への侵入も繰り返しており、日本としても今回の離島周辺の演習は看過できない事態だ。
中国軍は22年8月、ペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問に反発し、今回と同様に台湾を包囲する形で大規模演習を実施。弾道ミサイル5発が日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾するなど地域の緊張が高まった。台湾と日本最西端の沖縄県・与那国島は約110㌔しか離れていない。「台湾有事は日本有事」であることが改めて示されたと言える。
日米台の安保枠組みを
中国の呉江浩駐日大使は、頼氏の就任式に日本の国会議員が出席したことを巡って、日本が「中国分裂」の企てに関与すれば「日本の民衆は火の中に連れ込まれるだろう」と述べた。露骨な脅しであり、このような暴言は撤回させるべきだ。
だが、これが中国の本音であり、日本は一層の防衛力強化に努めなければならない。自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値観を共有する日本と台湾は、中国を念頭に安全保障面でも関係を深めていく必要がある。
日台は中国の威圧に屈することなく、米国と共に安保対話の枠組みを創設し、抑止力向上に向けて連携強化を図るべきだ。