年初の台湾総統選挙で勝利した与党・民進党の頼清徳副総統がきょう、総統に就任する。民進党とすれば初となる3期連続の政権をスタートさせる節目の日だ。
揺さぶり掛ける中国
頼氏は中国の台湾併合圧力に「ノー」を突き付けてきた。台湾併合を事実上の公約とする習近平政権を警戒する台湾の人々が頼氏のその旗印に共感し、対中融和に傾く最大野党・国民党に政権を託すリスクの方を重く見た世論の後押しを受けてのスタートだ。
中国政府は早速、台湾の独立を目指す勢力を摘発する法整備に乗り出すと表明。頼総統就任を前に揺さぶりを掛けてきた。中国海警局の船舶を台湾の離島・金門島の周辺海域に頻繁に派遣し威圧を強めている。さらに総統選直後に発表された大洋州地域のナウルの台湾断交など、台湾の外交空間を札束攻勢で狭めてもいる。
これまでの習政権の手法からすると、偶発的な事件を契機としたり頼政権の言葉尻を捉えたりして台湾周辺で大規模な軍事演習に踏み切る可能性があり注意を要する。
とりわけ警戒しないといけないのが議会運営だ。総統選では民進党が勝利したものの、立法院(国会)では国民党が第1党を制し、民進党政権は少数与党でしかない。この政権と議会のねじれが、台湾を分断させることがないよう配慮する必要がある。そこにくさびを打ち込む形で、中国に付け込まれる隙になりかねないからだ。
なお台湾の総統は、元首であり陸海空軍の統帥権を持つ最高権力者だ。その総統を人々の一票で選ぶ直接選挙は、台湾の民主主義を象徴するものだ。これこそが大陸中国にはない台湾の資産でもある。
共産党一党独裁の中国では、権力の正統性が民意に基づいていないため、指導者に力がなければ長老政治になりやすく、力があれば強権統治に陥りやすい。いずれにしても待ち受けているのは権力の私物化だ。その意味で、台湾は中国に対する灯台だと言える。
その灯台には、中国共産党政権の闇を照らし出し、台湾の自由と民主主義を守り、さらなる高みへと導く役割が課せられる。英国式民主主義が定着していた香港にも同様の期待がかかっていたことがあった。だが期待された「中国の香港化」とは裏腹に、現実は中国式強権統治に組み入れられる「香港の中国化」が進行中だ。
安保や通商の戦略的要衝
台湾という灯台を守ることは、同じ島国であり、自由と民主主義、人権などの価値を共有するわが国の責務である。「自由で開かれたインド太平洋」構想を外交方針とする日本にとって、台湾との関係強化はそのとば口となる。
わが国から見た台湾の重要性は論をまたない。東シナ海と南シナ海を結ぶ台湾は、安全保障や通商の面でも戦略的要衝である。さらに人工知能(AI)やIT開発においてなくてはならない最先端半導体の製造能力を有する台湾の存在感が、国際的にも急速に高まっている現実もある。