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【社説】文献調査 核ごみ処分への理解深めたい

佐賀県玄海町の脇山伸太郎町長が、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査を受け入れると表明した。原発の使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクルの実現に向け、最終処分場の存在は不可欠だ。玄海町の決断を歓迎したい。

玄海町が全国で3例目に

受け入れを決めたのは、北海道の寿都町と神恵内村に続き全国で3例目。玄海町には九州電力玄海原発があり、原発立地自治体による受け入れは初めてとなる。脇山氏は「日本全体で考えるべき問題。議論を喚起する一石となれば」との考えから決めたという。英断だと言える。岸田文雄首相は「心から敬意と感謝を表したい」と述べた。調査に応じると国から20億円が交付される。

玄海町議会は4月、地元商工団体提出の調査応募を求める請願を賛成多数で採択。これを受け、資源エネルギー庁幹部が町を訪問して調査実施を要請していた。早ければ6月に調査が始まる可能性がある。

核のごみは、原発の使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出した後に残る廃液をガラスで固めたもの。人間が近づいても安全なレベルまで放射線量が低減するのに数万年以上もかかり、政府は地下300㍍よりも深い岩盤に埋める最終処分場の候補地を探している。

文献調査では地質に関する論文やデータを基に最終処分場としての適性を検証する。北海道の2町村は調査の結果、第2段階の概要調査に進む候補地になり得ると判断された。この調査ではボーリングが行われ、さらに第3段階の精密調査では地下施設を使って綿密に調べる。

玄海町の文献調査受け入れ表明を受け、寿都町の片岡春雄町長は概要調査へ進むかどうかの住民投票を行う意向だ。北海道民だけでなく、全ての国民が最終処分場への関心を高め、理解を深める機会としたい。

ただ、概要調査の実施には都道府県知事の同意が必要だ。北海道の鈴木直道知事は概要調査に反対している。佐賀県の山口祥義知事も脇山氏の受け入れ表明に対し「新たな負担を受け入れる考えはない」と反対の意向を示している。政府は最終処分場の必要性を丁寧に自治体に説明する必要がある。

エネルギー資源の大半を輸入に依存する日本にとって、核燃料サイクルの実現はエネルギー安全保障上極めて重要だ。ただサイクルの要となる日本原燃の六ケ所再処理工場(青森県六ケ所村)の完成は延期が続いており、現時点で実現のめどは立っていない。全国の原発施設内の燃料プールには使用済み核燃料がたまり続けている。

受け入れ増加に期待

それでも、最終処分場の選定をおろそかにすることがあってはならない。海外の選定プロセスを見ると、10件程度の地域から絞り込まれている例もある。政府は2017年、最終処分場の建設候補となり得る地域を示した全国地図「科学的特性マップ」を公表した。このマップによれば、全国の約900の自治体に最適地が存在する。文献調査を受け入れる自治体がさらに増えることが期待される。

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