「統合作戦司令部」の創設を柱とする自衛隊法などの改正案が成立した。統合作戦司令部は平時から陸海空3自衛隊を一元的に指揮するとともに、米国との共同作戦の調整も担う組織で、今年度末に東京・市谷に240人規模で発足する予定だ。トップの統合作戦司令官は陸海空幕僚長と同格とし、統合幕僚長は防衛相の補佐に専念する。
台湾有事などを念頭に
2022年に策定された安全保障関連3文書は「統合運用の実効性強化」を掲げており、4月の日米首脳会談では自衛隊と在日米軍の指揮・統制枠組みの見直しが合意された。木原稔防衛相は、統合作戦司令部設置で「同盟国・同志国の司令部との情報共有や運用面での協力を一元化できるため、統合運用の実効性が向上する」とその意義を説明する。具体的には、日米の指揮統制の連携を円滑なものとし、台湾有事などに備えた即応体制の強化が狙いである。
「国家主権の観念を……厳格に受け入れるには世界はあまりにも小さくなってしまった。世界の民主主義国はこの事実を知らなければならない。今の世界ではどの国も孤立することは出来ない」。これは、第2次世界大戦の帰趨(きすう)を決したノルマンディー上陸作戦で連合国の軍隊を統一指揮したアイゼンハワー最高司令官が著した『ヨーロッパ十字軍』の一節だ。大戦後、一国の防衛をその国の軍隊だけで全うすることは難しくなった。
そのため集団安全保障や集団防衛の体制が敷かれ、各国の軍隊間で共同作戦による運用が一般化した。自衛隊ではこれまで米軍と共同作戦を行う際の専門の調整窓口がなかった。統合作戦司令部設置で共同運用体制の整備が大きく進むことになる。
米軍と米国の同盟国の軍隊が共同作戦を実施する場合、各国軍隊の指揮系統を一本化するケースと各国間の協力関係の下で行うケースがある。日本は憲法上の問題から後者、すなわち日米がそれぞれの指揮系統を維持した上で作戦を行う。
今回の組織改編で米軍との一体化が強まり、自衛隊が米軍の指揮下に組み込まれたり、米軍の戦闘に巻き込まれたりするのではないかとの懸念や批判も出ている。しかし、木原防衛相も国会などで繰り返し説明しているように「自衛隊と米軍はおのおの独立した指揮系統に従って行動」し、「自衛隊の活動は日本の主体的な判断で行い、憲法の範囲内で行使される」というこれまでの基本原則に変化はない。
指揮枠組みの見直し急げ
米側でも日米連携の在り方について検討を進めている。現在、共同作戦で自衛隊との調整に当たるのは米ハワイのインド太平洋軍だが、日本との時差や距離などの弊害をなくすため、在日米軍司令部の機能強化や権限の拡大などが議論されている。
自衛隊だけで日本防衛の任務を完遂することはできない。わが国の独立と安全を確保するには、日米の緊密な防衛協力が不可欠である。中国や北朝鮮、さらにロシアなどの脅威が急速に高まりつつある今日、自衛隊と米軍の一体的な運用が円滑かつ効果的に行えるよう、日米双方は指揮・統制枠組みの見直し作業を加速させる必要がある。