経済安全保障分野の重要情報について、取り扱う資格者を政府が認定する「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度を創設する新法「重要経済安保情報の保護および活用に関する法律」が成立した。
情報保全の強化に向けて一歩前進だが、新法だけでは十分ではない。万全の備えを固めるには、スパイ活動そのものを取り締まるスパイ防止法を制定する必要がある。
情報保全の必要性高まる
新法は、サイバー対策や供給網の脆弱(ぜいじゃく)性など安全保障に支障を来す恐れのある情報を「重要経済安保情報」に指定。政府が犯罪歴や精神疾患など7項目について調査し、情報漏洩(ろうえい)の恐れがないと認めた人に限定して機微情報を提供する。情報を漏洩した場合、5年以下の拘禁刑など罰則を科す。
制定の背景には、人工知能(AI)など軍事と民生の両方に利用できる「デュアルユース」と呼ばれる技術の領域が拡大し、情報保全の必要性が国際的に高まっていることがある。日本は先進7カ国(G7)の中で唯一、経済安保が対象の情報を扱う資格者を政府が認定する制度が未整備で、技術者などが国際的な会議に参加できないケースも生じていた。
適性評価制度は、日本では2014年施行の特定秘密保護法で、防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野を対象に導入された。経済安保上の重要情報に関しても制度が整備されたことで、海外との共同研究に参加しやすくなり、企業のビジネスチャンス拡大が期待される。
一方、適性評価は身辺調査を含むため、対象者がプライバシー侵害などの不利益を被らないかとの懸念も指摘されている。新たな制度は、公務員だけでなく、民間企業の従業員らを広く対象としている。適性評価の結果は大切な個人情報であり、この漏洩も許されない。調査を行う政府には、厳重な管理が求められよう。
日本国内における外国の産業スパイ活動は激しさを増している。20年1月には、ソフトバンクの元社員がロシアの外交官に唆され、電話基地局に関する機密情報を漏洩したとして逮捕された。23年6月には、産業技術総合研究所の中国籍の所属研究員が、営業秘密に当たるフッ素化合物の合成技術情報の研究データを中国企業に漏洩した疑いで逮捕されている。
適性評価の導入は、産業スパイ対策の強化にはつながるだろう。しかし、これだけでは十分とは言えない。問題は、日本にスパイ活動を取り締まる法律がないことだ。
1985年に国会に提出されたスパイ防止法案は、最高刑を死刑または無期懲役とした。スパイ活動は国家の安全に対する重大な脅威となるからだ。外国でもスパイ罪の最高刑は死刑などとなっている。
外国の活動を抑止せよ
日本の安全を守るには、防衛体制などについての機密はもちろん、先端技術に関する情報の漏洩も何としても防がなければならない。外国によるスパイ活動を抑止するため、スパイ防止法の制定と本格的な防諜(ぼうちょう)機関の創設を急ぐべきだ。