【社説】水俣病と環境省 患者の苦しみに向き合え

環境省職員が水俣病の被害者団体との懇談でマイクを切り、参加者の発言を妨げた問題で、伊藤信太郎環境相が熊本県水俣市を訪れて関係団体と発言者に直接謝罪した。

患者の中には水俣病で家族を亡くした人もいる。患者に寄り添うべき政府が、正反対の態度を取ったことは誠に残念だ。

団体代表の発言妨げる

懇談は、現地での水俣病犠牲者慰霊式の後に行われ、環境省と患者らでつくる8団体などが参加。団体側の代表2人が持ち時間の3分を超えて意見を述べた際、職員がマイクの音を切って発言を妨げた。

代表の一人は、症状に苦しみながら昨年4月に亡くなった妻のことを思い、「(原因企業の)チッソが水銀を流さなければ……」と話している最中に音を切られた。持ち時間が決まっていたとはいえ、あまりにも杓子(しゃくし)定規で配慮に欠けた対応だ。

水俣病は、チッソの排出したメチル水銀化合物が原因で発生した公害病だ。手足のしびれや震え、視野狭窄(きょうさく)、難聴、運動失調などの症状が出るほか、妊婦が水銀を摂取した場合は胎児に影響し、先天的な障害を持って生まれてくるケースもある。

1956年に公式確認されたにもかかわらず、政府の対応が遅れたことで被害が拡大した経緯もある。こうした事実を踏まえれば、患者の苦しみや悲しみに向き合い、その要望をできる限り政策に反映させていくのが政府の役割のはずだ。

そもそも71年に環境庁(当時)が発足したのは、水俣病など四大公害病の発生を受けてのものだった。原点をないがしろにするような対応は容認できない。

今回の問題について伊藤氏は、代表の発言は聞こえていたとした上で「環境省の人間がスイッチを切ったのか分からなかった」などと釈明したが、環境行政に対する不信を招いたことを猛省する必要がある。代表の一人が「環境相自らが指摘して指導すべきだった」と抗議したのは当然である。

伊藤氏は「後ろにリミットがない形を考えたい」と懇談の在り方を見直す考えを示した。それができるのであれば、もっと早くすべきだった。

岸田文雄首相は伊藤氏を厳重注意したが、「聞く力」を掲げる首相の任命責任も問われよう。自民党は派閥の裏金事件などの影響で、4月の衆院3補選は不戦敗も含めて全敗した。こうした中で今回のような問題が生じるのは、危機感が欠けているのではないか。

診断法の早期実用化を

水俣病を巡っては、2009年に未認定患者救済のための特別措置法が成立した。一定の症状が見られる人を対象に一時金210万円などが支払われるものだ。だが申請者のうち約9700人が対象外となり、対象者を地域や年代で「線引き」するのは不当として各地で訴訟が続いている。

水俣病の問題が長引いている理由の一つは、この病気に特徴的な脳の萎縮などを客観的に診断することの難しさだ。

現在は国立水俣病総合研究センターが診断法の開発を進めている。全面解決に向け、早期の実用化を目指してほしい。

spot_img
Google Translate »