【社説】認知症高齢者 予防と早期発見へ対策強化を

厚生労働省の委託を受けた研究班の推計によると、高齢者の認知症患者数は2050年に586万6000人、65歳以上に占める割合「有病率」は15・1%に達することが分かった。認知症にかかれば生活の質が低下し、介護負担も大きい。予防に向けた取り組みを強化すべきだ。

生活習慣改善での効果も

研究班は、国内4地域で実施した調査結果を基に推計した。22年は患者数が443万2000人で、有病率が12・3%。約30年間で患者数が150万人近く増えることになる。ただ、これまで厚労省は別の推計を基に25年に約700万人に上るとしていたが、今回の推計では大幅に下回った。

日常生活に支障はないが、記憶力などの低下がある「軽度認知障害」(MCI)に関しても初めて推計を出した。MCIの患者数は、22年が558万5000人で、50年に631万2000人となる。有病率はそれぞれ15・5%、16・2%だった。

注目したいのは、過去に算出された12年の認知症の有病率15・0%と比べ、22年は2・7ポイント低下したことだ。これについて専門家は、MCIから認知症へ症状が進んだ人の割合が低下した可能性を指摘している。認知症は糖尿病や高血圧などの生活習慣病が関与しており、MCIは早期であれば生活習慣の改善である程度正常に戻るケースがあるという。

しかし、高齢者の中には自分がMCIであることに気付かない人も少なくない。人工知能(AI)なども活用し、早い段階での発見を増やす必要がある。

認知症の中で最も割合の多いアルツハイマー型を巡っては、23年9月に治療薬「レカネマブ」が国内で正式承認され、12月には公的医療保険も適用されることとなった。レカネマブは、アルツハイマー病の原因とされるタンパク質「アミロイドβ(ベータ)」を脳内から除去することで、症状の進行を遅らせる効果が期待される。

ただ低下した認知機能を元に戻すことはできないため、対象は初期段階の患者に限られる。この点でも、早期の発見と対応が重要だと言えよう。

家族が認知症にかかると介護負担も大きい。高齢の配偶者や子供が面倒を見る「老老介護」が増える中、介護に疲れて患者を殺害する悲劇も生じている。患者や家族を支える仕組みと共に予防に向けた啓発を強化しなければならない。

認知症については、孤立がリスクを高めるとの研究結果もある。この意味で、50歳までに一度も結婚したことのない「生涯未婚率」が上昇を続けていることは気掛かりだ。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、50年には65歳以上の1人暮らしが1083万人に達する。高齢者の孤立を減らし、予防につなげることも求められる。

国家的課題と位置付けよ

今回の調査結果を受け、政府は対策を議論し、認知症基本法に基づいて今秋にも策定する基本計画に反映させる。少子高齢化で人口が減少する中、社会の活力を維持する上で健康な高齢者の存在は大きい。認知症予防を国家的課題と位置付け、官民挙げて取り組む必要がある。

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