【社説】岸田首相外遊 同志国との連携を強化せよ

岸田文雄首相がフランス、ブラジル、パラグアイを歴訪した。フランスでは防衛協力を強化し、新興・途上国「グローバルサウス」の代表格であるブラジルでは、ルラ大統領との共同声明で領土保全や武力行使禁止など国連憲章の原則を順守する重要性を強調した。

日本は覇権主義的な動きを強める中国を念頭に、民主的価値観を共有する同志国、友好国との連携を強化すべきだ。

フランスを「準同盟国」に

首相はフランスのマクロン大統領との会談で、自衛隊と仏軍の相互往来を容易にする「円滑化協定(RAA)」締結に向けた交渉入りで合意した。インド太平洋地域における中国の軍事的台頭を踏まえたものだ。

フランスは南太平洋に海外領土を持ち、インド洋に基地を保有する「インド太平洋国家」で、仏陸軍が陸上自衛隊と昨年、ニューカレドニアで初の共同訓練を行うなど、近年は日本と連携した活動が増加傾向にある。RAAは自衛隊と仏軍が相手国で活動する際の法的地位を定めるもので、出入国や武器・弾薬持ち込みの手続きが簡素化される。締結・発効すれば、強引な海洋進出を進める中国への抑止力向上につながる。

一方でフランスは、中国との経済的結び付きを強めており、米中との対立とも一線を画している。中国の習近平国家主席は首相の直後にフランスを訪問し、マクロン氏と会談した。対中包囲網を強める日米を牽制(けんせい)する機会になったと言えよう。

日仏は情報保護協定や防衛装備品・技術移転協定、物品役務相互提供協定(ACSA)を締結済みで、日本はフランスを英国やオーストラリアと同様に「準同盟国」へと格上げすることを目指している。フランスは日本と共に先進7カ国(G7)のメンバー国であり、日仏関係の強化によってインド太平洋地域の安定を図る必要がある。

ブラジルとパラグアイへの訪問も、中国を意識してグローバルサウスとの連携を強化するためだった。ただ、ルラ氏との共同声明では、中東やウクライナの情勢に懸念を表明したものの、中国の覇権主義的な動きへの直接の言及はなかった。

ブラジルは中国やロシアなど新興5カ国を中心とする「BRICS」の一員であり、中国が最大の貿易相手国であることに配慮したものだ。共同声明では気候変動対策としてアマゾンの森林保全などで協力を確認。両国の技術を組み合わせた脱炭素連携の枠組み創設も盛り込んだ。

日本とブラジルは「G4」の枠組みで国連改革にも取り組んでいる。南米の大国で民主主義国であるブラジルとの関係を一層深めていくべきだ。

台湾支える外交の展開を

南米で唯一、台湾と正式な外交関係を持つパラグアイのペニャ大統領との会談では、東アジア情勢について「力による一方的な現状変更の試みは許されない」との認識で一致した。台湾統一へ武力行使も辞さないとする中国が、台湾と国交を持つ各国に次々と断交させる外交攻勢を強める中、パラグアイの存在は貴重だ。日本は、台湾と外交関係のある他の国々との関係も強化し、台湾を支える必要がある。

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