海外の外国為替市場で1990年4月以来34年ぶりの円安水準となる1㌦=160円台まで一時下落した円相場が、先週末の欧米市場で一時151円台まで円高に戻している。
歯止めの利かなかった円安の進行が反転に向かった背景には、4月29日と5月2日に実施したとみられる政府・日銀による為替介入がある。政府・日銀の努力を評価するとともに、引き続き過度の円安進行には迅速な対応を求めたい。
効果的なタイミング
前回2022年10月の為替介入が151円90銭台で実施されたことから当面の「防衛ライン」とみられていた152円を突破しても、口先介入だけで円安進行の阻止に本気度を見せなかった政府・日銀がようやく動いたという感じで、結果から見れば為替介入はタイミングが効果的で、運も味方したようである。
最初の為替介入とみられる先月29日は東京市場が祝日で休場の中、アジア市場で一時160円台まで急落した後、5兆円規模の介入が実施され、数時間で約6円高い154円台まで買い戻した。商いが通常より薄い中での効果的な介入だった。
2度目とみられる2日早朝は、米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利の据え置きを決めた翌日。しかも、パウエルFRB議長が会見で利上げの可能性に否定的だったことから、円売りの勢いがいったん弱まった機会を捉えて、日本時間2日午前5時すぎから3兆円規模の介入とみられる円買いが断続的に入り、157円台半ばから一時153円台まで4円以上も急騰したのである。
アジア開発銀行(ADB)年次総会出席のため訪問中のジョージアの首都トビリシで、記者団の取材に応じた神田真人財務官は、為替介入の有無について「私から申し上げることは何もない」と述べながらも、介入効果の“実績”もあり、「必要な場合には、24時間適切な対応は取っていく。今後もそれは続けていく」と強調。力強く市場を牽制(けんせい)した。
さらに運というのは、米労働省が3日に発表した4月の雇用統計で、非農業部門の就業者数が市場予想を下回る一方、失業率が予想を上回ったことでFRBによる利下げ期待が再燃したことである。米長期金利が低下し、為替介入がなくとも円買い・ドル売りの動きが活発化して一時151円台まで円を押し上げたのである。
為替介入には効果の持続性や投入できる資金量に限界もある。日米間に大きな金利差があり、それが最近の為替相場を動かす要因になっていることからすれば、なおさらである。
今後も果断な対処を
ただ金利差もそうだが、肝心なのは金利差に影響を与える景気の方向性である。米景気の動向が主な要因に違いないが、日本としては景気に一日も早く勢いを取り戻したい。
消費をはじめとする経済活動の下押し要因になっている過度な円安の阻止へ、もう少し早めに実施できなかったか不満は残るが、高い賃上げ率などの好環境を生かすためにも、政府・日銀には今後も果断な対処を望みたい。