文部科学省は優秀な人材確保を目指し、教員採用1次試験について来年度は5月11日を「標準日」として目安にする方針を固めた。多くの自治体では従来、7月1次試験、8月2次試験、9月から合格発表という流れになっている。今年度は1カ月前倒しして6月1次試験の日程となったが、来年度はさらに1カ月早まることになる。しかし、教員の成り手不足は深刻で採用試験を早めれば解決するという類いのものではない。
1年以内の離職者も増加
昨年の公立学校教員の採用倍率は3・4倍と過去最低で、小学校教員では2・3倍と5年連続で過去最低となっている。少子高齢化で教員を目指す人数も減少している。また、採用試験に合格したものの、1年以内に離職するケースも少なくない。
民間企業や地方公務員(上級)、国家公務員(一般職)も採用試験が早められている。文科省はそれより早い前倒しを方針とした。また、試験回数も秋から冬の時期にかけ複数回実施するよう地方自治体の教育委員会に要請している。
東京都の場合、昨年度教員として採用された3472人のうち169人が1年以内に離職している。採用を1・4倍に増やしたが、離職者が1・6倍に増加した。離職の理由は自己都合が159人(半数が病気理由)、懲戒免職が1人、9人が試用期間に指導力不足と判断された。
教員の姿勢としてクラスで起きたことは全て担任の責任で処理するという“不文律”があり、「教科の勉強のため研修もしたい、子供と向き合う時間も欲しい」と考えながらも仕事に忙殺されてしまう。朝会での子供の健康観察に始まり、給食の配膳チェック、授業後に部活の顧問として指導を終えると、保護者からの電話に対応、子供たちの提出物をチェックしたら既に退勤時間を過ぎている。
家族との団らんの時間も持てず、翌日の授業の準備をすると一日が終わる。就業時間に表れない“隠れ残業”も多くある。モンスターペアレントへの対応を含め、現場の教員には限界があり、うつなど精神的な病にかかることも少なくない。大学で教育課程の勉強をする中で指導や対処法なども学ぶ必要がある。
採用試験を前倒しすれば、教員免許を取得するための教育実習と時期が重なり、受験者にとって二重の負担になる。また、新入生を受け入れ、新学期が始まり、やっと落ち着いてきた各教委、各学校にも負担を強いることになる。教育実習で訪れた学校で教員の“過労死レベル”の仕事量を目の当たりにすると「自分にはやっていけない」と尻込みしてしまう学生も近年増えているという。
有効な手段ないのが実情
学校では働き方改革の一環として部活の地域移管、残業時間の給与補償、教員資格が無くてもできる仕事の民間への委託など待遇改善に手を打っている。だが、有効な手段がないのが現状だ。先行き不透明な時代を生き抜く子供たちを育て上げるには、試験の点数が良好だというだけではなく、こんな先生・大人になりたいと子供が思える魅力ある人材を集め、育てることも必要だ。