ウクライナに対する約608億㌦(約9兆4000億円)の緊急支援予算案が米議会で可決され、バイデン大統領の署名を経て成立したことで、約半年ぶりに軍事支援が再開された。この予算はバイデン氏が昨年10月、議会に申請したが、野党共和党強硬派の抵抗で審議は停滞。その間ウクライナ向け財源が枯渇し、米国は軍事支援を続けることができなくなっていた。
トランプ氏が姿勢修正
ウクライナのゼレンスキー大統領は米国に支援再開を求めてきたが、米国では対外問題への関心が低く、トランプ前大統領も「自分が大統領に再選されれば24時間以内にウクライナ戦争を終わらせる」と豪語。支援停止や大幅縮小の意向を仄(ほの)めかしてきた。議会共和党もトランプ派の影響が強く、支援に反対し、強硬派の一部議員は同党のジョンソン下院議長への辞任圧力を強め、予算案の提出や採決の阻止を図ってきた。
米国の支援が止まり、武器・弾薬不足に陥ったウクライナ軍は劣勢を余儀なくされ、ロシアに敗北する恐れが強まっている。米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は、米国が軍事支援をしなければ「年末までに敗北する危険性が非常に高い」と述べ、警鐘を鳴らした。
米国が支援を止めれば戦争が終わって平和が戻り、米露関係も改善に向かうという考え方は、短絡的であるばかりか極めて危険だ。米国が軍事援助を削減停止し、欧州も追随すれば、ロシアが戦争に勝利し、ウクライナ全土が征服されるだろう。そうなれば、北大西洋条約機構(NATO)軍が直接露軍と対峙(たいじ)することになり、第3次世界大戦勃発の危機が迫る。
そのような事態を防ぐには、自由諸国がウクライナの戦争継続能力を支え、ロシアの侵略を阻止する必要があり、その中心的な役割を担うのは米国をおいてほかにない。
ウクライナの窮状を前に支援再開を求める声が強まる中、トランプ氏も大統領選を意識して「ウクライナの存続は重要だ」と姿勢を修正。「無償ではなく貸付」であれば支援を容認する意向を示した。これを受け、ジョンソン氏は予算案の一部を借款に切り替え議会に提出。共和党の一部が反対に回ったが可決にこぎ着け、与党民主党が多数の上院でも可決された。
今回の予算成立で最悪の事態はひとまず回避されたが、孤立主義に陥り、あるいは政争からウクライナ支援が滞る事態が繰り返されぬよう、米議会関係者には自由世界の守護役としての米国の責任を強く自覚してもらいたい。支援疲れや自由諸国の足並みの乱れを狙うロシアのプーチン大統領の思惑にはまってはならず、台湾侵攻を目論(もくろ)む中国が米国の対応を注視していることも忘れてはいけない。
日本も引き続き尽力を
下院の討論では共和、民主両党の議員が「ロシアの挑戦を退けるには米国の指導力が必要不可欠」との岸田文雄首相の先の米議会演説を引用し、予算案への支持を訴えた。日本も引き続きウクライナ支援に尽力し、「日本が米国と共にある」(岸田首相演説)ことを実践によって示すべきである。