東京・伊豆諸島の鳥島沖合で対潜水艦戦訓練を行っていた海上自衛隊の哨戒ヘリコプターSH60K2機が墜落した。衝突したとみられており、1人が死亡、7人が行方不明となっている。日本防衛のための厳しい訓練中に殉職した隊員に心から哀悼の意を表したい。
現場は水深約5500㍍の海域だが、海自は海上保安庁とも協力し、行方不明の隊員の捜索に全力を挙げてほしい。
対潜戦の夜間訓練中に
レーダー記録などから2機は夜間訓練を実施中、近接して飛行していたことが確認された。フライトレコーダーが近くの海域で発見され、海自は2機が空中で衝突して墜落した可能性が高いと判断した。 訓練は幹部が部隊の練度を確かめる「査閲」で、海自制服組トップの酒井良海上幕僚長は「通常の訓練よりも実戦に近い高度な内容で、参加ヘリと艦艇間の連携など複雑な運用をしていた」と説明した。日本近海で中国潜水艦の脅威が高まる中、対潜戦の能力向上は不可欠だが、訓練中に事故が起きたことは痛恨の極みである。
2023年4月には陸自のUH60JAヘリが沖縄県・宮古島周辺で墜落し、10人が死亡する事故が発生。海自ヘリを巡っては、SH60Jが17年、青森県沖に墜落して3人が死亡したほか、21年には鹿児島県・奄美大島沖で60Kと60Jが空中で接触する事故も起きた。
海自では21年の事故を受け、複数機が活動する際の安全確保策として、機体同士が近接して飛行する場合には見張りを強化したり、極力高度を分けたりすることなどを示した。今回の事故をなせ防げなかったのか、徹底的に検証すべきだ。
対潜戦訓練では、潜水艦の包囲網を敷きながら複数の哨戒ヘリが特定の空域を飛び交うため、接触の危険もある。潜水艦の速度や進行方向などを絞り込むため、機体から海中につり下げるソナーを使用し、ホバリングも行う。数十㍍の低高度を飛行することもあるという。特に夜間訓練は難易度が高い。
敵の攻撃に備えた訓練である以上、ある程度の危険が伴うことはやむを得ない。とはいえ、事故が発生すれば防衛体制への悪影響も大きい。
海自は約80機保有する同系統のヘリについて当面の間、訓練飛行を停止する。日本を取り巻く安全保障環境の厳しさを踏まえれば、再発防止策の策定を急ぎ、できるだけ早期に訓練を再開することが求められる。
中国は18年1月、一方的に領有権を主張する沖縄県・尖閣諸島の接続水域に潜水艦を進入させた。また沖縄からフィリピンを結ぶ第1列島線を越える形で軍艦や潜水艦をたびたび通過させるなど、覇権主義的な行動を強める一方だ。訓練の重要性は高まっている。
米国などとの連携深めよ
今月初めに南シナ海のフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内で行われた日米豪比4カ国の初の共同訓練では、対潜戦訓練も行われた。中国の強引な海洋進出や潜水艦の活動に対処するには、同盟国の米国はもちろん、同志国との連携を深める必要がある。