【社説】憲法審査会 議論遅らせず改正案の提示を

衆参両院で憲法審査会が開催され自由討議が行われた。元日に能登半島地震が起き、地域インフラが破壊され被災地では移動も生活も困難な状況が続いた。審査会では以前から緊急事態条項を憲法に設けるなどの議論は続いているが、非常事態は時を待って訪れない。早急に必要な条文の起草を進めて憲法改正原案を提示すべきだ。

先延ばしにする野党

非常事態に対処するための国家緊急権は各国の憲法でも規定されているのが一般的で、わが国でも旧憲法に定められていた。記憶に新しい新型コロナウイルスの世界的感染拡大(パンデミック)では、フランス、ドイツ、イタリアなどが憲法に規定される緊急事態条項によって厳格な対処を迅速に取った。

都市封鎖(ロックダウン)など行動の自由を制限する措置について、日常を取り戻した状態から考えれば歓迎したいものではない。非常事態は起きてほしくない最悪の事態だが、避けたくても避けられない大災害や有事が現実に起きる。迅速に法的な対処を取り得るようにするのは平時の重要課題だ。

が、パンデミックに際してわが国では当時の首相はじめ政府や自治体首長らが音頭を取り、外出自粛などを要請した。法的根拠はなかったが、学校は卒業式、入学式を見送り、そのうち次々と休校となり、出勤を見合わせる企業が相次いだ。異例のことだが、要請を無視する事例も多々あった。

政府はその後、コロナ対策に限った強制力を伴わない「緊急事態宣言」を発令するため、新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部改正をもって対処した。非常時にもかかわらず国会審議に日数を費やすのは本末転倒の場当たり的対処と言わざるを得ない。あらかじめ非常事態に国が総力を挙げて対処する規定を憲法に設けるべきだ。

だが、新型コロナ対策の「緊急事態宣言」でも、立憲民主党など野党内では反発が強かった上、同宣言を無視した営業活動を行う店やこれを利用した政治家が問題になった。東京五輪の取材に来日した外国メディアからは日本の「緊急事態」に説明が加えられたほどだ。仏作って魂入れず、である。

今国会の憲法審査会でも、正月に起きたばかりの能登半島地震を目にしたにもかかわらず、立民、共産党など野党は緊急事態条項を批判し、審議を先延ばしにする議論が目立つ。誠実に向き合ってほしい。

憲法改正原案を審議する憲法審査会は2007年に始動したが、その後わが国では原子力災害を伴った東日本大震災、熊本地震、能登半島地震など大きな地震被害があり、また近年の豪雨は過去に例がない勢いで水害のリスクも増している。

さらにロシアのウクライナ軍事侵攻の一方で、中国の沖縄県・尖閣諸島の領有権主張、北朝鮮の核兵器開発と弾道ミサイル試射など極東有事のリスクはさらに高まっている。

国家緊急権の条文起草を

最悪の非常事態を想定し、国家緊急権をいかなる条文にするのか、憲法審査会で各党は真剣な議論によって憲法改正原案を起草すべきだ。

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