米連邦検察は、銀行詐欺容疑で米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手の通訳だった水原一平容疑者を刑事訴追した。借金返済のため大谷選手の銀行口座から1600万㌦(約24億5000万円)以上を違法なブックメーカーに不正送金した疑いによるものだ。巨額の送金は、一度はまると抜けられなくなる違法賭博の恐ろしさを示している。
大谷選手の口座から送金
検察によると、水原容疑者は2021年9月に違法スポーツ賭博を始めて巨額の損失を抱えた。このため、大谷選手の銀行口座の設定を変更し、自身の携帯電話とつながるよう細工。21年11月から今年1月にかけて口座から不正送金した。
水原容疑者は大谷選手と二人三脚で歩んできた。大リーグ中継では常にそばにいる光景が見られ、ファンや関係者からも親しまれていた。今回の事件は、大谷選手やファンに対する裏切りだと言わざるを得ない。
送金承認のため、大谷選手を装って銀行に電話したことも確認された。大谷選手の大リーグ1年目の18年に口座開設を手伝ったので口座にアクセスできたという。信頼関係を前提とした手口は悪質だ。最後は大谷選手に「ブックメーカーへの借金の肩代わりをして送金した」とするように頼んだが拒否された。大谷選手が不正に関与していた証拠はない。
水原容疑者は、2年余りで約1万9000回も賭け、60億円以上の損失を出していた。一定額の損失を出すと賭けられなくなるため「限度額を上げてほしい。これが最後」と何度もブックメーカーに懇願。借金が膨らみ、ブックメーカーからの電話に折り返さずにいると「(大谷選手が)犬と散歩しているのが見える。話し掛けて、どうやったら連絡を取れるか聞いてもいい」という脅しのメッセージが届いた。ギャンブルが身の破滅を招いた典型的な例だと言える。
米国ではスポーツ賭博によるギャンブル依存症が深刻な問題となっている。全米問題ギャンブル協議会によれば、全米で250万人が「重度」の依存症患者と推定されている。これは成人の約1%に当たる。
公営ギャンブル以外の賭博が禁じられている日本も例外ではない。スマートフォンで海外のサイトに手軽にアクセスできるため、オンラインカジノをやめられなくなった若者が多額の借金を抱え、返済のために「闇バイト」などの犯罪に走るケースもあるという。
医療や福祉の力で更生を
政府は23年4月、大阪府と大阪市が申請したカジノを含む統合型リゾート(IR)の整備計画を認定した。ただギャンブル依存症が増えるとの懸念も指摘され、実効性のある対策が大きな課題となっている。依存症に陥れば、財産だけでなく離婚などで家族を失うケースも多い。たとえ合法な賭博であっても、深みにはまれば不幸な事態を招くことに変わりはない。
保釈された水原容疑者は、ギャンブル依存症の治療プログラムを受けることを義務付けられた。罪を償うとともに医療や福祉の力を借りて更生し、二度とギャンブルにはまることがないようにしてほしい。