2024年版外交青書が上川陽子外相によって閣議に報告された。中国に対しては「戦略的互恵関係」の表現を5年ぶりに復活させた。
しかし、覇権主義的な海洋進出や台湾「統一」に向け軍事行動を辞さないとする言動を行う中国から譲歩を引き出す機が熟したとは言い難い。言葉による誤解が楽観ムードを生む可能性がある。
「夢」追求する習体制
戦略的互恵関係は歴史認識やイデオロギーなどで対立する日中両国が、環境問題や北朝鮮問題など双方の利益になる分野で関係を強化する考えだ。
だが「中国の夢」を追求する習近平体制が3期目に入った中国は、愛国主義を高揚させながら「偉大な中華民族の復興の実現」を進めている。これが「力による現状変更」の露骨な動きとなって南シナ海、東シナ海、台湾海峡で見過ごせない状況になっている。
東京電力福島第1原発の安全基準を満たした処理水の放出に当たっては、日本産水産物を禁輸したのみならず、福島県の小売店などにクレームをつける電話が中国から集中した。
環境対策技術の粋を結集した多核種除去設備(ALPS)処理水について、国際原子力機関(IAEA)や多くの国々が安全性に理解を示している。禁輸措置を取る中国の規制は政治的であり、わが国に経済的外交的な圧力をかけるものである。
もちろん、わが国としてはいかなる国とも、法の下に経済関係を発展させる互恵的関係を追求したいところだ。中国とは「『戦略的互恵関係』を包括的に推進」することを確認してきた外交の経緯があるものの、習体制における中国の問題ある行動に青書で5年間この表現が消えた原因がある。
ならば、中国が覇権主義的な海洋進出を放棄し、台湾やわが国の尖閣諸島、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)など周辺地域に脅威を与える軍事的行動、海警局公船を用いた領海侵犯をやめることが互恵の表現復活の前提だ。現状はむしろ悪化しており緊張は高まっている。日本側が「弱気」と受け取られないか懸念される。
中国の海洋における「力による現状変更」に対抗するには、多国間の協力が不可欠だ。青書は、南シナ海において「厳しい戦略環境を踏まえ、日米比3カ国の協力の具体化を進める」と述べ、日米韓の協力が「法の支配に基づく『自由で開かれたインド太平洋(FOIP)』の実現にとって一層重要」となっているとも指摘した。
台湾守る決意伝えよ
緊張する台湾問題に対して、中国は米中国防相電話会談でも「核心的利益は一歩も譲らない」との主張を繰り返した。
青書は「台湾海峡の平和と安定が日本を含む国際社会にとっても極めて重要である」との岸田文雄首相の認識を強調。「台湾は、日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値や原則を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人」と位置付けている。大切な友人を守り抜く決意を中国に伝えたい。