イスラエルが今月初め、シリアのイラン大使館を空爆したことを受け、イランがイスラエル領への報復攻撃を行った。イランがイスラエル領を直接攻撃するのは初めて。
事態がエスカレートすることは誰も望んでおらず、地域を巻き込んだ紛争に発展することは避けねばならない。
無人機やミサイルで攻撃
イスラエルは今月1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館をミサイルで攻撃。領事部にいた「革命防衛隊」の将官7人が死亡した。イスラエルはこれまでも、シリア内のイラン系民兵組織への攻撃を繰り返してきた。シリアやレバノンの民兵組織にイランから供給される兵器を破壊することが主な目的とされている。
また、シリア、レバノンからのイスラエル攻撃は、昨年10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエル襲撃後、激化しており、イスラエルは対応を迫られてきた。革命防衛隊幹部の殺害も繰り返されており、大使館空爆もその一環だろう。だが、在外公館への攻撃は、国際法違反でもある。あえて外交の禁じ手に出たイスラエルとしても、報復の覚悟はあったはずだ。
メンツをつぶされた格好のイランも、報復しないという選択肢はなかった。攻撃が報じられると、イランではデモ隊が「イスラエルに死を」「米国に死を」と気勢を上げたという。大部分は迎撃され、イスラエル側の被害は軽微だったものの、大規模な攻撃によって一定のガス抜きにはなったはずだ。
イランとペルシャ湾岸アラブ諸国は長年対立関係にあるが、近年はサウジアラビアを中心に関係修復の動きが見られている。紛争激化となれば、米国の同盟国であり、米軍基地を擁する湾岸諸国が紛争の最前線となることは避けられない。
バーレーンとアラブ首長国連邦(UAE)は2020年にイスラエルと国交を正常化させ、地域には融和的な空気が漂う。サウジもイスラエルとの関係改善を望んでおり、現状を覆すことはイスラエルや湾岸諸国にとってメリットはない。
湾岸諸国は既にイランへの反撃に加担することに慎重な姿勢を示している。ペルシャ湾は重要な原油積み出し航路でもあり、紛争となれば世界経済も大変な影響を受ける。日本も例外ではない。
報復攻撃数日前から、米国は攻撃の可能性を示唆。攻撃に備え付近の海軍艦艇の配置換えを行っていたという。実際、米軍も一部の無人機、ミサイルを迎撃している。攻撃に使われた無人機、ミサイルは300を超え、イスラエル軍によると「99%」が撃墜された。イスラエルは防空ミサイルの開発、運用で世界有数の実績を持つ。今回、その有効性が図らずも実証された。
問われる米国の外交力
既に米国が、水面下で仲裁に乗り出していることが伝えられている。イランも「いかなる脅威にも対応する」と強硬姿勢を示す一方、攻撃直後に報復の「終了」を示唆するなど、幕引きを狙っているのは明らかだ。
鎮静化への鍵を握るのは米国だ。双方の顔を立てつつ、矛を収めさせる外交力が問われる。