【社説】岸田首相訪米 同盟をさらなる高みへと導け

岸田文雄首相が米国を訪問した。日本の首相が国賓待遇で訪米するのは安倍晋三氏以来9年ぶり。岸田首相はバイデン大統領と会談し、共同声明では、日米両国を複雑で相互に関連する課題に対処する「グローバルなパートナー」と位置付け、国際秩序の維持・強化で緊密に連携し、幅広い分野で協力を進める方針が示された。

「史上最も力強い」関係

安全保障政策で両首脳は、自衛隊と在日米軍の指揮統制の在り方を見直し、連携を強化する方針で一致した。また、防衛装備品の共同開発・生産に向けた協力の強化で合意。米英豪の枠組み「AUKUS(オーカス)」と日本との技術協力を検討する方針も示された。

経済などの面では、人工知能(AI)や半導体などの先端技術開発やサプライチェーン(供給網)の強靱(きょうじん)化に取り組むこと、宇宙開発やクリーンエネルギーへの移行推進での協力なども打ち出された。外交では「力や威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対」し、台湾海峡の重要性も改めて表明するなど中国を強く牽制(けんせい)した。

岸田首相は米議会の上下両院合同会議で演説。中国の挑戦から世界を守るため、日本は「米国と共に立ち上がっている」と訴えた。共同声明で協力分野を拡大制度化し、議会で日米一体を強調。またノースカロライナ州の日系企業視察なども日程に組み込むことで米国経済への日本の寄与もアピールし、トランプ前大統領の返り咲きの事態にも備えているのだ。

さらに、フィリピンのマルコス大統領を交えた初の日米比首脳会談も行われた。日米比の枠組み立ち上げも海洋進出を強める中国に対抗する狙いがある。

岸田首相は政権発足以来、米国の期待に応え防衛力強化に取り組んできた。バイデン氏も、防衛費を国内総生産(GDP)比2%に増額する方針を決定するなどの岸田首相の努力を高く評価し、国賓待遇を決めたと伝えられている。バイデン氏は現在の日米関係を「史上最も力強い」と称(たた)えたが、幅広い協力の強化に加え、今後日米が一体となって戦える防衛体制づくりも進む。今回の会談を通じ、首脳相互の信頼関係や日米の同盟体制は一層強固なものとなった。首相訪米の意義は大きい。

バイデン政権は、米国だけで中露などに対応することに限界があるため、同盟国中心の多国間連携による「統合抑止」の戦略を進めている。この多国間枠組みの構築で重要な役割を担うのが日本であり、米国も日本を必要としている。日本はインド太平洋地域の平和と安定のため、米国だけでなく同志国との関係強化にも最大限の力を注いでいかねばならない。日米関係は新たな段階に入ったと言える。

自身の言葉で考えを語れ

日本国内では、岸田政権はバイデン政権に引き摺(ず)られ過ぎとの指摘もある。そうした批判や懸念を払拭するには、日米関係や安全保障に対する自らの考えを首相が自身の言葉で国民に語る必要がある。また日米同盟や多国間枠組みの構築・運営で強い指導力を発揮し、そのスキームを日本の安全保障強化に結実させる努力が重要だ。

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