日銀が発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、認証不正による自動車の生産停止の影響で大企業製造業の景況感が4四半期ぶりに悪化した。一時的要因のため心配は不要だが、深刻な人手不足が浮き彫りになり景況感改善の重しになっている。また円安が原材料価格を引き上げ、賃上げ機運に水を差しかねない。これ以上の円安阻止へ、政府・日銀は断固たる姿勢で臨んでほしい。
人手不足が浮き彫りに
大企業製造業の景況感は、ダイハツ工業や豊田自動織機の認証不正で自動車の生産・出荷が一時停止したほか、能登半島地震による部品供給の遅延でホンダも減産を余儀なくされ、鉄鋼や非鉄金属、業務用機械など幅広い業種に影響が広がり、4期ぶりに悪化。中小企業は業況判断指数(DI)がマイナス圏に転落した。
もっとも、原因がはっきりしており、生産も徐々に再開されて4月から回復が本格化するとみられる。景況感の改善が足踏みした格好だが、停滞は一時的であり、心配は不要であろう。
大企業非製造業は、訪日外国人の消費が旺盛なこともあり、景況感は1991年8月調査以来、32年7カ月ぶりの高さで8期連続の改善。物価高で消費者の節約志向は依然根強いが、人出の回復や5%を超える高水準の今春闘の賃上げから、先行き消費マインドの回復・高まりを期待する向きも少なくない。
堅調な非製造業だが、先行きは大企業で7ポイント、中小企業でも5ポイントの悪化を見込む。理由は人手不足である。
人手の過不足を示す雇用人員判断DIは大企業非製造業がマイナス37、中小企業非製造業はマイナス47。全規模全産業でもマイナス36と91年11月以来の不足超過と、人手不足の深刻化が改めて浮き彫りになり、景況感改善の重しになっている。
高齢化による働き手の減少に加え、運送業や建設業では4月から時間外労働の上限制限も適用となった。関係業界では懸命に取り組んでいるが、需要の取り逃がしを防ぐためにも、人材の確保が急務となっている。
もう一つの懸念は最近の円安の進行である。今回の調査で、企業の2024年度の想定為替レートは1㌦=141円42銭(全規模全産業)だが、最近はそれより10円も安い151円台で推移し、先月27日には152円台に迫るまでに下落した。
円安により原材料やエネルギー価格が再び高騰し、企業、特に中小企業の収益を一段と圧迫するようになれば、賃上げの原資確保の大きな妨げになるのは必至。雇用の7割を占める中小全体に賃上げが波及しなければ、先行きの消費回復の足かせになり、政府・日銀が描く好循環の実現も難しくなる。
求められる機動的対処
しかも、都合が悪いのは、物価高対策として実施してきた電気・ガス料金の補助金が5月使用分で終了することだ。消費者物価の上昇要因が、円安の影響にさらに加わることになる。
政府・日銀には為替介入など円安進行の阻止に断固とした姿勢を示すとともに、電気・ガス補助の延長など機動的な対処をするよう求めたい。