トップオピニオン社説【社説】マイナス金利解除 もっと早くにできなかったか

【社説】マイナス金利解除 もっと早くにできなかったか

日銀が大規模金融緩和の一環として実施してきたマイナス金利政策の解除を決めた。2007年2月以来、17年ぶりの利上げである。これにより、13年4月から続いた異例の大規模緩和は終了し、金融政策はようやく正常化へ踏み出す。

今回のマイナス金利解除は評価するが、大規模緩和の継続が過度な円安と異常な物価高を招いた大きな要因でもあっただけに、もっと早くに実施できなかったか悔やまれる。

急速な利上げは想定せず

日銀はマイナス金利解除により、長期金利を0%程度に誘導する長短金利操作(YCC、イールドカーブコントロール)の撤廃も決定。植田和男総裁は「短期金利を主たる政策手段とする普通の金融政策に戻る」と説明した。

今後の金融政策運営に関しては「緩和的な金融環境が継続する」と述べ、急速な利上げは想定していないことを強調。YCCの撤廃についても、企業の設備投資などに影響を与える長期金利の急騰(債券価格の急落)を避けるため、大量の国債買い入れは当面継続するとした。

これらは、利上げになるとはいえ、急激な変動をもたらすものではないことを示すもので、説明に丁寧さが窺(うかが)える。今回の発表も内容がほぼ事前に明らかになっているなど、市場との対話も用意周到で手堅さが感じられ評価できる。

日銀は米国が利上げに転じた22年以降、市場に対応する形で大規模緩和策の一部修正を同年12月、23年7月、10月と3回実施。いずれも長期金利の上限を0・25%から段階的に引き上げ、0・5%、0・5%を上回ることを容認、3回目は1%超えも容認するというもので、マイナス金利解除には至らなかった。

今回の政策修正について、植田総裁はそれを見極める上で24年春闘を重要視。3・58%と30年ぶりの高い水準の賃上げ率となった昨年に続き、今年は昨年を大幅に上回る5・28%(連合第1回集計)となったことを「大きな判断材料にした」とし、賃金と物価が共に上昇する好循環の達成に自信を深めたとした。

ただ、米国が利上げに転じて以降の2年間、ロシアによるウクライナ侵攻もあり、大規模緩和の下での資源・エネルギー価格高騰と過度な円安の進行で、食品値上げが22年2万5000品目、23年3万2000品目という異常な物価高を招来。賃上げを上回る物価高が続き、最近では消費を低迷させている。前述の3度の一部修正を含め、もっと早く実施できていれば、これほどの物価高にならずに済んだのではないか。

マイナス金利が民間投資を促すより金融機関の利益を圧迫する要因になっていたことからすれば、なおさらである。

好循環の着実な実現を

マイナス金利解除で、金融はようやく正常化の道を歩む。「金利のある世界」である。今後見込まれる緩やかな金利上昇の影響は、人・家計から企業、国など実体経済に広く及ぶ。景気の先行指標である株価は幸い、これを好感し続伸している。物価高が落ち着きを見せつつある中、それを上回る賃上げを起点に好循環を着実に実現したい。

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