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【社説】夫婦別姓訴訟 社会の基本単位を変えるな

夫婦別姓を認めないのは憲法に違反するとして訴訟が起こされた。個人尊重の考え方が強まる中で、選択的夫婦別姓(別姓)を容認する人が増える傾向にあるが、問題の本質を見誤ってはならない。

同姓は「家族の呼称」

夫婦同姓(同姓)の場合、姓は「家族の呼称」だが、別姓を認めることはそれを「個人の呼称」に変えてしまう。つまり、社会の基本単位を家族から個人に変えてしまうことを意味する。別姓導入の本質はここにあるのであって、問題を個人の自由に矮小(わいしょう)化してはならない。

わが国は今、少子化、児童虐待など家族を巡る深刻な問題が噴出している。背景にあるのは行き過ぎた個人主義だ。別姓導入は、日本の文化の柱を成す家族制度を崩壊させるとともに、親子の絆を弱めて社会混乱に拍車を掛けるだろう。

東京都、北海道などの男女12人が別姓を認めない民法や戸籍法は違憲として東京、札幌両地裁に提訴した。その一人は「氏名は自分そのものだ」との理由から、改姓したくないため事実婚を選んでいるという。しかし、事実婚では、結婚した夫婦に比べ遺産相続で不利になるなどと訴えている。

最高裁大法廷は2015年と21年、いずれも同姓は合憲との判断を示した。姓は単に個人のアイデンティティーを示す役割だけではない。「家族の一員と対外的に知らせる」「家族と実感できる」など、同姓の利点を合理的に説明している。

また、大法廷は夫婦の姓を巡りどのような制度を導入すべきかという問題と、憲法適合性の審査は「次元を異にする」と指摘。制度の在り方は「国会で論じられ、判断されるべきだ」とした。大法廷が既に2度も合憲の判断を下したにもかかわらず、3年後にまた同じ提訴を行うのは訴訟の乱発と言えよう。政治運動に裁判を利用しているとの危惧も抱く。

一方、世論調査を見ると、別姓に前向きな声が強まっているのも事実。特に、経済界にはその傾向が強い。「女性の働き方や多様な改革をサポートする一丁目一番地」(十倉雅和・経団連会長)と強く望む意見もある。結婚による姓の変更は女性に多いことから、このような発言となっていることがうかがえる。女性差別の視点から主張されることもある。同姓を導入することの意味が周知されていないからだろう。

近年は職場だけでなくパスポート、運転免許証などにも旧姓の通称使用が拡大しており、姓の変更による不便さはほとんど解消されている。ことさらその弊害を言い立てることには違和感を覚える。

子供の視点で考えよ

同姓か別姓かを議論するのであれば、後者の弊害も論ずべきである。忘れてならないのは子供への悪影響だ。同姓では子供の姓は親と同じになる。しかし、別姓を選択できるようになれば、子供の姓を巡って夫婦の間で争いが起きるなど、家族に軋轢(あつれき)が生まれる恐れがある。制度によっては、兄弟間で姓が違うケースも生まれよう。別姓導入の是非は、子供の視点で考えることこそが重要なのである。

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