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【社説】犯罪被害者支援 実情に応じた負担軽減策を

犯罪被害者や遺族への支援強化の動きが進んでいる。警察庁は遺族に支給する給付金の最低額について、現行の320万円から1000万円超まで増やす方向で制度改正を進めている。被害者の精神的、経済的負担を軽減するため、実情に応じた取り組みが求められる。

給付金の制度見直しへ

現行制度は、被害者の年齢と養っていた人数によって給付金の支給額が決まる。子供や専業主婦など収入がない被害者が亡くなった場合は支給額が低く、制度上の最低支給額は被害者が20歳未満で養う家族がいない場合の320万円。被害者1人当たりの平均は743万円で、交通死亡事故の自動車損害賠償責任(自賠責)保険の平均支払額約2500万円より大幅に少ないことも批判されてきた。

制度を見直すきっかけとなったのは、2021年12月に大阪市北区の心療内科クリニックで26人が犠牲となった放火殺人事件だ。給付金は事件前3カ月の収入などで算定されるため、休職や退職を余儀なくされ、クリニックで職場復帰を目指していた被害者は「無職」とされて給付金は少なくなってしまう。不合理な話である。

被害者遺族は精神的なショックを受けることはもちろん、家計の担い手を失った場合は経済的に困窮することもある。損害賠償を求めて民事訴訟を起こしても、加害者側に支払い能力のないケースが多い。国が支援強化に動くのは当然だ。

見直し案では、給付金の最低額を引き上げた上で、遺族が配偶者や子、父母の場合はさらに加算し、最低額は基本的に1000万円以上となる。犯罪によって負傷し、休業したり、障害が残ったりした時の給付金も、最低額が引き上げられる見通しだ。被害者や遺族の負担軽減につなげてほしい。

加害者の人権擁護を強調する左派メディアの影響もあって、被害者や遺族の権利は長く置き去りにされたままだった。妻を殺害された弁護士の岡村勲氏は、こうした現状を知り、00年に全国犯罪被害者の会(あすの会)を設立。被害者の権利保護を初めて明記した犯罪被害者基本法の成立(04年)や、刑事裁判への被害者参加制度の導入(08年)、殺人など凶悪事件の公訴時効撤廃(10年)などの実現に尽力し、18年6月に解散した。

ところが被害者の生活苦が改善されていないことから、岡村氏は22年3月、新あすの会を設立した経緯がある。新あすの会では、被害者に一元的に寄り添う「犯罪被害者庁」の設立を国に求めている。被害者や遺族の多くが、国の支援や権利保護について不十分だと感じていることがうかがえる。

きめ細かい対応体制を

政府は犯罪被害者の支援に向け、日本司法支援センター(法テラス)の業務を拡充する総合法律支援法改正案を閣議決定した。殺人や性犯罪の遺族や被害者の負担軽減のため、弁護士が被害届や告訴状の作成、提出や加害者側との示談交渉などの支援を行えるようにするもので、法務省は利用者に費用負担を求めない方向で調整している。被害者一人ひとりにきめ細かく対応できる体制を整えてほしい。

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