自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、2日間にわたって行われた衆院政治倫理審査会では、岸田文雄首相や安倍、二階両派幹部らへの審査を実施した。しかし新たな証言は乏しく、実態解明は進まなかった。国民の政治不信の高まりに対する危機感が欠けていると言わざるを得ない。
首相や派閥幹部が出席
首相は冒頭、国民の疑念を招いていることを謝罪した。だが、裏金づくりについては「経緯や(始まった)日時等は確認できない」と述べるにとどめた。立憲民主党の野田佳彦元首相が、公表された2017年よりも前から政治資金収支報告書の不記載があったのではないかと追及したのに対しても「資料がないので確認できない」などと逃げの答弁を重ねた。
安倍派幹部の4人も、パーティー収入の還流(キックバック)を巡って、22年に決まった廃止方針の撤回や不記載への関与を口をそろえて否定した。こうした姿勢には違和感を覚えるばかりだ。真相究明には程遠く、これでは何のために政倫審を開いたのか分からない。
派閥の政治資金パーティーやパーティー収入の還流そのものが悪いのではない。問題は収入を収支報告書に記載せず、裏金化したことである。既に衆院議員の池田佳隆被告が約4800万円の過少記載容疑で逮捕、起訴されたほか、参院議員の大野泰正被告が約5100万円の不記載の罪で在宅起訴され、谷川弥一元衆院議員は約4300万円の不記載で罰金100万円、公民権停止3年の略式命令を受けた。国民の政治不信は頂点に達している。
不記載を知らなかったでは済まされない。首相や裏金に関わった派閥の幹部は、国民の疑念を招いた責任の重さを自覚すべきだ。「政治には金がかかる」というのであれば、なおのこと資金の流れの透明化に努めなければなるまい。収支報告書に記載されない裏金は使途不明であり、私腹を肥やしたのではないかと思われても仕方がない。
一方、野党の側にも問題がある。自民が24年度予算案を23年度中に成立させるため、1日の参院送付を目指したのに対し、立民は審議不十分と反発。小野寺五典衆院予算委員長の解任決議案などを提出して抵抗した。自民が裏金事件について衆院政倫審で引き続き審議することを確約したので立民は採決を受け入れたが、いくら事件の解明が重要でも予算案を人質にするような手法は受け入れられない。
予算案には能登半島地震の復旧・復興費用も含まれる。復旧が急がれる中、予算案の成立を遅らせることは被災者軽視の批判を免れない。
改憲論議なく嘆かわしい
能登半島地震のような大規模災害は、日本のどこで起きてもおかしくない。自然災害だけでなく、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、外国の侵略への備えも欠かせない。
本来であれば、自衛隊明記や緊急事態条項創設など憲法改正について今こそ論じるべきだ。それにもかかわらず、自民は裏金事件で政治不信を招き、立民は大局を見ずに党利党略で動いている。嘆かわしい限りだ。