【社説】スウェーデン加盟 露の侵略が生むNATO強化

北大西洋条約機構(NATO)にスウェーデンが加盟することが決まった。ロシアのウクライナへの軍事侵攻はNATOの東方拡大が理由の一つだったが、逆に中立国だったフィンランド、スウェーデンの北欧2カ国を加えて32カ国の集団防衛体制へとNATOはさらに強化、拡大することになった。

長年の中立政策見直す

スウェーデンのNATO加盟承認議定書の批准案を未批准国だったハンガリーの議会が可決したことで、全加盟国の批准が出そろった。スウェーデン政府が数日中に加盟文書を米国に寄託して正式な加盟国になる。

2年前にロシアがウクライナ侵攻を開始してから間もなくスウェーデンは、隣国のフィンランドとほぼ同時に長年の中立政策を見直し、NATOに加盟申請をした。いずれの国とも軍事同盟を結ばない中立政策は、覇権国家の争いに巻き込まれないことで国家存亡の危機を回避しようという選択肢だった。

しかし、ロシアに攻め込まれたウクライナの現実は同盟国を持たない国の悲劇そのものであり、NATO加盟国の首脳らはロシアの主権侵害、国際法違反を繰り返し強く非難しても、ウクライナを救援する派兵については厳に否定した。ウクライナの最大支援国である米国のバイデン大統領も、米軍派兵はしないと明言した。

一方、ロシアは核兵器使用を示唆して自国への軍事攻撃を牽制(けんせい)し、厳しい制裁や国際的な非難をものともせずウクライナを侵略し続けている。中立政策の維持より、放棄してNATOの集団防衛に寄与し、加盟国の中でも米国、英国、フランスなど核保有国からの拡大抑止の提供を受けることが最も安全な針路となったことは疑いない。

ナポレオン戦争終結後から中立政策を取ってきたスウェーデンがNATO加盟に踏み切ったのも、ロシアのプーチン政権が帝政ロシアや旧ソ連の版図を復活させるため、核兵器による脅しを用いて領土を切り取る動きを本格化させたためだ。

2014年にウクライナ南部クリミア半島を併合した際、プーチン大統領は核兵器使用の可能性があったとメディアに述べた。当時は軍事力を実際には用いず、「ハイブリッド戦争」と呼ばれたが、核の恫喝(どうかつ)はあった。一昨年の本格的なウクライナ侵攻でも、ロシアは短期間で決着が付くとみていた。今や拡大抑止の有無は国家の死活問題になってきた。

優秀な潜水艦隊や防衛産業のあるスウェーデンの加盟で、バルト海はNATOの海となり、ロシアの脅威にさらされている旧ソ連のバルト3国などNATO加盟国の抑止力が向上したと言える。また北欧3カ国がNATOに加盟したことで、1000㌔以上の長大なロシアとの国境線を持つフィンランドの後方がより強固になった。

日本は協力を深めよ

軍事侵攻を現実にしたプーチン政権の領土的野心は、甘く見るべきではない。ロシアは資源大国であり、世界一広大な領土を持つ。極東においても、わが国は日米同盟を軸にNATOとの協力も深め、抑止力を高めるべきだ。

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