ロシア軍がウクライナに軍事侵攻を開始してから2年が経(た)った。占領したウクライナの東・南部のルハンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソンの4州をロシアは一方的に自国に併合したと主張しているが、露骨な「力による現状変更」であり、許されるものではない。ロシアの軍事侵攻を止めるには各国の支援の継続が不可欠だ。
1万人以上の民間人死亡
戦災は甚大である。昨年11月の国連人権事務局の発表によれば1万人以上の民間人が死亡した。住まいを追われた避難民は1000万人以上に及ぶ。国連難民高等弁務官事務所の調べでは、国外へ逃れた避難民は2月18日時点で約648万人、国内避難は昨年末時点で推計約369万人に上る。住宅や道路、発電所などのインフラの破壊は深刻であり、世界銀行などの試算では、復興に今後10年で4860億㌦(約73兆円)を要する。
隣国の領土を軍事力で切り取る行動は、紛れもない侵略戦争だ。しかし、ロシアは核兵器による恫喝(どうかつ)で自国への軍事攻撃を封じ、国内では「戦争」と呼ぶことを禁止して「特別軍事作戦」と呼ぶことでカムフラージュしている。
ロシアに高い代償を払わせようと国際社会は厳しい対露経済制裁と武器供与を含むウクライナ支援に踏み切った。ロシア軍は少なくとも31万5000人の死傷者を出し、最大2110億㌦(約31兆7000億円)の戦費を掛けたと米国防総省は分析している。一方、ウクライナ軍側は死傷者を公表していないが、20万人とも指摘されている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は北東部の前線を視察し、ロシア軍が予備兵力を投入する一部の地域でウクライナ軍は「極めて困難」な状況にさらされていると警鐘を鳴らした。米国からの追加支援614億㌦(約9兆円)が滞っており、火砲、弾薬など兵器は不足している。ウクライナ軍はドネツク州の激戦地アウディイウカから撤退するなど苦しい状況にある。
戦いはなお長期化するとみられ、ロシア軍の西進を阻むためには巨額の戦費が掛かる。ドイツで開かれたミュンヘン安全保障会議でもゼレンスキー氏は、改めて欧米はじめ国際社会の支援継続を求めた。各国の財政事情もあり、支援を巡っては「ウクライナ疲れ」が表出している。
だが、ウクライナだけでロシア軍の侵略を撃退する軍事力はない。ウクライナが敗北すれば北大西洋条約機構(NATO)はポーランド国境で直接ロシアと接することになる。新規加盟国のフィンランドの国境と合わせ、冷戦時代に逆戻りの軍事的な緊張関係が再現する可能性もある。さらに極東でも、台湾統一の野心を隠さない中国の動きを刺激しかねない。
国際的連携の強化を
来日したウクライナのシュミハリ首相は「ウクライナが陥落したら次は欧州諸国」と発言した。まさに「きょうのウクライナは明日の世界」と言っても過言ではない。わが国はウクライナとの経済復興会議で新たな支援を表明し、バイデン米大統領は対露追加制裁を発表した。ウクライナを支援する国際的連携をさらに強化すべきだ。