経済産業省が、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定のため、北海道の寿都町と神恵内村で実施している第1段階の「文献調査」に関する報告書案を公表し、2町村とも第2段階の「概要調査」に進む候補地になり得ると判断した。選定に向けて一歩前進だと言える。
2町村が概要調査候補に
最終処分場は、文献、概要、精密の3段階の調査を行った上で選定される。報告書案によると、寿都町は全域と沿岸から15㌔程度以内の大陸棚が、神恵内村では火山の積丹岳の半径15㌔以内を除いた約3~4平方㌔の地域が概要調査の対象となる。
2町村では2020年11月、全国で初めて文献調査が開始された。調査を担当する原子力発電環境整備機構(NUMO)は、活断層や火山などに関する延べ1500点以上の資料から最終処分場として避けるべき地点を明確にした。
範囲を限定して掘削などを行う概要調査には4年、地下施設を建造して調べる精密調査には14年ほどかかるという。2町村での概要調査がスムーズに行われることが望まれる。ただ概要調査以降は、地元市町村に加えて知事の同意が必要になるが、鈴木直道知事は反対の姿勢を示している。
放射性廃棄物の処理は世界各国でも大きな課題だ。こうした中、フィンランドは世界初の最終処分場建設を進めている。地元住民には積極的に情報を開示し、小規模な対話集会を繰り返したことで理解を得られたという。スウェーデンも22年1月、最終処分場の建設計画を承認している。
脱炭素社会の実現に向け、岸田政権は原発を最大限活用する方針だ。そのためには最終処分場が欠かせない。東京電力福島第1原発事故を経験した日本で地元の不安を払拭するには、フィンランド以上の努力が求められよう。
エネルギー資源の9割近くを輸入に頼る日本では、原発の使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクルを推進し、エネルギーの自給率向上や資源の有効活用につなげる必要がある。使用済み核燃料は約95%が再利用可能で、残り5%の高レベル放射性廃棄物を地下300㍍よりも深い場所にある岩盤の中で管理するのが最終処分場だ。フィンランドでは南西部オルキルオト島の地下400~450㍍に造られた。
最終処分場の選定に向けて政府は02年から自治体の公募を始め、17年7月には建設候補となり得る地域を示した全国地図「科学的特性マップ」を公表した。この地図によれば、全国の半数に相当する約900の自治体に最適地が存在する。
長崎県対馬市議会では23年9月、文献調査の受け入れを求める地元建設業界の請願を採択したが、市長の反対で実現しなかった経緯がある。政府は、2町村以外の自治体も積極的に調査受け入れを表明できるよう後押しする必要がある。
情報発信強化に努めよ
そのためには国民の理解を得られるよう、最終処分場の安全性や重要性に関する情報発信の強化に努めるべきだ。