44回目の「北方領土の日」を迎えた。わが国固有の領土である択捉島、国後島、歯舞群島、色丹島が旧ソ連によって不法占拠され、今なお、その状態が続いている。岸田文雄首相はきょう開かれる北方領土返還要求全国大会でロシアに改めて抗議するとともに、4島一括返還への強い決意を明確にすべきだ。
真剣に交渉しないロシア
首相は施政方針演説で対露関係について、領土問題を解決し平和条約を締結する方針を堅持すると述べた。これに対し露外務省のザハロワ情報局長は、日本との平和条約締結交渉は「2022年3月21日」付の声明で中断したと改めて指摘した。
ザハロワ氏は、ウクライナ侵攻を受けた日本の対露制裁が交渉中断の理由としているが、それは口実だろう。
安倍政権は、ロシアと平和条約を締結するため経済協力を推進した。14年のクリミア併合で欧米から経済制裁を科されていたロシアにとってありがたい話だったに違いない。
しかしプーチン政権は経済協力だけを掠(かす)め取る一方、返還後の北方領土への米軍駐留を禁じるよう求めるなど、時間稼ぎを続けた。さらには交渉の過程で北方領土問題の棚上げまで主張し、20年には領土割譲を禁じる憲法改正を行った。日本と真剣に交渉する気はなかったのだ。
プーチン政権の本質を如実に示したのが、クリミア併合、そして22年に開始されたウクライナ侵攻だ。欧米寄り路線を進むウクライナを自らの「勢力圏」に引き戻すため、あろうことか軍事侵攻という暴挙に出たのだ。
ウクライナを自らの歴史的領土と呼び、そこに「反ロシア」が作られようとしていると語ったプーチン大統領は、侵攻開始時の演説で、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に対する不満をぶちまけた。
「力による現状変更」を実行する相手との交渉は極めて困難である。だからといって、北方領土返還と平和条約締結を断念するのは愚かな選択だ。
わが国はさらに大きな声で、ロシアによる領土の不法占拠を訴えるべきである。そして、ロシアによって領土を侵食されているウクライナを支援し、国際社会と歩調を合わせ、対露制裁を徹底すべきである。対立国の嫌がることを行うのが、外交の基本の一つだ。
ウクライナ情勢は予断を許さないが、このような暴挙に出たロシアに対する制裁が緩められることはない。ロシアは軍需品生産と軍人家族への支払いに資金を注入したことで経済が回復したが、“戦時経済”には必ず反動がある。
かつてロシア(ソ連)が、北方領土問題で自ら動いたのは、経済的に困窮し、日本の支援を必要とした時である。そのような状況に、ロシアは自ら陥ろうとしているのだ。わが国は対露制裁により、それを加速させればよい。
実現は日本の正当な権利
わが国はぶれることなく、不法に占拠された北方領土の返還実現は日本の正当な権利であることを改めて内外に示すべきだ。ロシア相手の交渉には時間がかかるが、それが4島返還への最も近い道である。