衆参両院の本会議で、岸田文雄首相の施政方針演説に対する各党の代表質問が行われた。元日発生した能登半島地震への対応が喫緊の課題だが、野党各党は自民党派閥の政治資金規正法違反事件に時間を割いた。
聞き取りは全議員に
与党・公明党の山口那津男代表は同事件について「国民感覚から大きく懸け離れていて断じて許されない」と訴えた。
立憲民主党の泉健太代表は「異次元の裏金、異次元の不祥事だ」とし、自民党全議員を対象に政治資金収支報告書に不記載のお金がないか調べ、国会に報告するよう首相に求めた。日本維新の会の馬場伸幸代表は自民による改革案「中間とりまとめ」は「刷新には程遠い内容」と批判。共産党の志位和夫議長は「自民党ぐるみの組織的犯罪」と断じ、事件の全容を明らかにするよう求めた。
首相は答弁で「政策集団から人事と資金を切り離すことは政治改革の本丸の一つ」と述べ、「党としても関係者の聞き取りを行う」ことで明確な責任を果たすと強調したが、慎重な言い回しでかわす場面が目立った。
聞き取りを安倍派と二階派、岸田派幹部に限定すれば、事件の全容解明ができるか疑問が残る。国民の「政治とカネ」への不信を払拭するには、野党を含む全ての議員による政治資金収支報告書の提出が望ましい。
今国会で大きな議論となるのは、政治資金規正法に連座制を明記することの是非だ。立民、維新、公明は連座制導入を訴えた。会計責任者に国会議員を加えることを義務付けたり、国会議員の責任を直接問えるようにしたりするなどの具体策を求めている。首相は「党としての考え方をまとめ議論したい」と語るにとどまったが、これには慎重な議論が必要になる。
自民党の事件調査チームトップの森山裕総務会長は、会計責任者が意図的に不正をすれば政治家生命が簡単に失われてしまう危惧に言及した。外国勢力による働き掛けも想定する必要があろう。
岸田内閣と自民党の支持率が低迷しているが、それ以上に野党の支持率が軒並み低い。代表質問は野党が存在感を示す機会だ。疑惑追及は必要としても、極端な主張を掲げるだけでは国民に支持されないのも当然だ。
泉氏は、野党が連携して次期総選挙で政権交代を果たそうと訴えた上で、持論である「ミッション(共通政策)型内閣」を提唱したが、他党から理解を得られていない。維新の藤田文武幹事長は「与党を引きずり下ろすために、共産党から維新まで立憲民主党に力を貸してくれという、都合のいい話に聞こえてしまう」とし、憲法、外交、安全保障などで他党とのすり合わせをすべきだと主張。国民民主党の玉木雄一郎代表も「国家の根幹に関わる政策で、ある程度一致できなければ難しい」との立場だ。
党首討論を実施せよ
どの政党に政権を託すか、分かりやすい指標となるのは党首討論だが、2021年6月を最後に実施されていない。
国民は、首相と各党代表が1対1でとことん論戦を交わすのを見たいはずだ。