【社説】フーシ派と中東 民主陣営は海上の安定確保を

イエメンの親イラン武装組織フーシ派が紅海で商船攻撃を繰り返している。フーシ派は、イスラム組織ハマスと戦うイスラエルへの攻撃継続を宣言し、「イスラエルに関連する全ての船は正当な攻撃対象となる」としている。しかし、民間船舶への無差別攻撃は容認できない。

商船攻撃の背後にイラン

2023年11月には、日本郵船の自動車運搬船がフーシ派に拿捕(だほ)された。運搬船はバハマ船籍でトルコからインドへ向かっていたが、外観からはイスラエルとの関係を示すものはうかがえず、イスラエル人の乗員もいなかった。それでもフーシ派は「イスラエルの船」と断定し、「地域の安全と安定を脅かしているのはシオニスト政権(イスラエル)だ」と批判した。

紅海は、世界の海運の約15%が通過する。これには、世界で取引される穀物の8%、海上輸送原油の12%、液化天然ガスの8%が含まれる。フーシ派による攻撃で、民間船舶は紅海を避けて遠回りするルートを航行せざるを得なくなっている。商品の運搬に大幅なコスト増と遅れをもたらしている事態は看過できない。

フーシ派が攻撃を緩めない背景には、後ろ盾とされるイランの意向もあろう。イランは親イラン組織によるイスラエルや米国の権益への敵対行為を事実上容認している。米国がウクライナやパレスチナ自治区ガザの情勢への対応に追われる中、反米的な国家や組織の動きが活発化することが懸念される。

ヨルダンで24年1月末、米兵3人を殺害した無人機攻撃は、イラクの親イラン武装組織「カタイブ・ヒズボラ」によるものとされている。米野党共和党からはイランへの軍事行動を求める声が強まるなど中東情勢は緊迫の度を増している。

米英両軍は1月、フーシ派の拠点に攻撃を行った。この作戦は、オーストラリアとバーレーン、カナダ、オランダが支援。米英豪加やドイツ、韓国など10カ国は「航行の自由や不当な攻撃から船員の生命を守るという共通の決意を示した」とする共同声明を発表した。「法の支配」の価値観を共有する民主主義陣営が、航行の自由を擁護し、シーレーン(海上交通路)の安定を確保するために立ち上がったのは当然だ。

日本は米英の攻撃を支持したものの、共同声明には加わらなかった。声明の中に米英の集団的自衛権行使を支援するとの文言があったためだ。日本の集団的自衛権行使を巡っては、安全保障関連法で「存立危機事態」や「重要影響事態」などの条件が定められ、極めて限定的な容認にとどまっている。

集団自衛権巡る法整備を

一方、日本は原油の9割以上を中東から輸入している。フーシ派による攻撃で、紅海では原油タンカーの運航にも支障が出ている。

中東の原油なしに国民生活を維持できない日本が、米英の攻撃を支援できず、共同声明にも参加できないことは「自由で開かれたインド太平洋」の提唱国として恥ずかしい限りだ。憲法改正をはじめ、集団的自衛権行使の全面容認に向けた法整備が急がれる。

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