性感染症の一つ、梅毒の感染者数が昨年、3年続けて過去最多となった。SNSの「出会い系アプリ」や性風俗を利用した不特定多数との性行為を軽く考える風潮が広がっていることが背景にある。
妊婦感染で子供に障害も
梅毒を放置すれば心臓などに重い症状が出る。また妊婦から胎児への感染で「先天梅毒」の恐れもある。政府は少しでも症状があれば、医療機関を早期に受診することを注意喚起すべきだ。また、民間団体と連携して性規範の向上に努めることも重要で、この点については禁欲的な生活を美徳とする宗教が積極的に役割を果たすべきだろう。
国立感染症研究所によると、昨年1年間に全国で報告された梅毒の感染者数は1万4906人(速報値)。前年から1940人増え、3年連続で最多を更新した。自治体別では、東京都3658人、大阪府1967人、福岡県939人の順。大都市圏は人口が多いのだから当然だろうが、性風俗産業が乱立していることも影響しているはずだ。
一方、昨年第4四半期の人口100万人当たりの数値を見ると、東京都が60・7と多い。あとは福岡県49・5、大阪府44・7、岡山県43・4、宮崎県35・5と並ぶ。一昨年との比較では、長崎県2・81倍(146人)、鳥取県2倍(28人)、山形県1・94倍(31人)など。これらの数値から、全国的に急増していることがうかがえる。
報告制度が1999年に変わったので、それ以前と以後を単純には比較できないが、67年に1万人を超えた報告数は、90年代は年間500人程度に減っていた。昨年は実に30倍近くだ。政府は危機意識を強めるべきだ。
「梅毒トレポネーマ」を病原体とする梅毒は、性行為以外の感染経路がないことから性感染症(STI)の代表と言われる。この病原体が厄介なのは、抗菌薬で治療しない限り体内に残ることだ。3週間から6週間ほどの潜伏期間がある上、無症状のケースもある。しかも、感染力が強い。感染に気付かずに性行為を行えば、30~40%という高い確率で相手に感染させてしまうと警告する専門家もいるほど。
感染を早期発見できれば薬で容易に治療可能だが、放置すると内臓や脳に重篤な障害を引き起こす危険がある。また、妊婦が感染すると、子供に知的障害や視覚・聴覚障害などが出る先天梅毒を引き起こすこともある。これまで先天梅毒の最多は23人(2019年)だったが、昨年は37人と大幅に上回った。
梅毒の特徴を考えれば、乱れた性関係を結ばなければ感染を恐れる必要はない。しかし、不特定多数との性行為が社会に広がれば、感染者が増える。梅毒の急増は社会における性の乱れを映し出しているとみて、対応を考えることが肝要である。
積極的な啓発活動を
性はプライベートな問題だから、政府が直接的に介入すべきでない。しかし、性規範の乱れは社会秩序に深刻な影響を及ぼし、個人の生活を脅かすこともある。最大の犠牲者は子供だ。ここに民間団体の出番があるのだが、特に宗教団体は国民の性規範の向上のため、積極的に啓発活動、情報発信をしてほしい。