バイデン米大統領が就任してからちょうど3年が経過したが、メキシコとの南部国境から不法移民が押し寄せる「国境危機」は悪化する一方だ。バイデン政権の緩い国境管理の隙を突いて、違法薬物やテロリストの疑いのある人物の流入も増えており、米国にとって安全保障上の脅威にもなっている。
甚大な財政負担が発生
バイデン政権下の3年間で、税関・国境警備局(CBP)が南部国境で遭遇した不法移民の数は630万人以上に上る。国土安全保障省が5日に公表したデータによると、CBPはこのうち230万人以上を米国内に釈放した。これに加え、170万人以上が当局に見つからずに入国したと推定され、少なく見積もっても3年間で400万人以上の不法移民が米国内に入って来たことになる。
米国は移民国家だが、社会には移民を受け入れられる許容範囲というものがある。400万人といえば、横浜市の人口(約377万人)を上回る規模だ。これだけの数の不法移民が短期間に押し寄せて来れば、米国といえども社会秩序が不安定化することは避けられない。
南部テキサス州は国境州の痛みを共有させようと、昨年からニューヨークやシカゴ、首都ワシントンなどの主要都市に不法移民のバス移送を行っている。その影響もあり、都市部で不法移民が急増し、地元住民との軋轢(あつれき)が生じている。不法移民はすぐには就労できないため、行政は彼らに衣食住を提供しなければならない。ニューヨークは現在、約6万9000人の不法移民の面倒を見ており、財政負担は甚大だ。
バイデン政権の緩い国境管理は、社会問題になっている「薬物汚染」も悪化させている。中でも多くの若者を中毒死させている合成麻薬「フェンタニル」の流入が急増し、南部国境での押収量はこの3年間で5倍以上に増えた。
メキシコの麻薬カルテルが製造するフェンタニルは、中国が原料を供給している。中国は薬物を通じて米社会の不安定化を図っているとされ、バイデン政権は中国が仕掛ける、いわゆる「逆アヘン戦争」にあまりに無防備だ。
また、テロリストの疑いのある人物が南部国境で拘束されるケースも急激に増えており、2023会計年度(22年10月~23年9月)は169人に上った。トランプ前政権時代の17~20年度は、4年間で計11人だったことを考えると、異常な伸びである。バイデン政権の甘い国境管理を好機と捉え、米国と敵対する国家やテロ組織が工作員を送り込んでいる可能性がある。
国際的な安保リスクにも
下院多数派の野党共和党は、国境の強化を優先すべきだとして、バイデン政権が求めるウクライナへの追加支援を柱とする補正予算案に反対している。外交と内政の混同だとの批判もあるが、自国よりも他国の国境防衛に多額の税金を投じることに異論が出るのは自然なことだ。
この議論は、台湾有事で米軍の軍事介入の障害になる恐れもある。バイデン氏が放置する国境危機は、国際的な安全保障リスクにもなっている。