【社説】探査機SLIM 国民勇気づける月面着陸成功

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた小型無人探査機「SLIM(スリム)」が月面着陸に成功した。太陽電池が発電できていないというトラブルはあったが、旧ソ連、米国、中国、インドに次ぐ5カ国目の快挙である。

ピンポイントで達成

大成功とはならなかったが、宇宙からの明るいニュースは国民に、挑戦し前へ進む勇気を与えるものとなろう。関係者の努力を多とするとともに、小惑星探査機「はやぶさ」のようにトラブルを克服し、ミッションを完全遂行することを期待したい。

JAXAの国中均宇宙科学研究所長は、月面着陸成功を「ぎりぎり合格の60点」と評価した。太陽電池が発電できない状況だったためだが、主要なミッションである目標地点から100㍍以内のピンポイント着陸はほぼ達成した。他国の着陸機は目標地点からの誤差が数~十数㌔なのに対して、SLIMの精度がいかに高いか。

ピンポイント着陸は、これまでの「降りやすい所に降りる」から「降りたい所に降りる」ことを可能にするもので「月探査で非常に重要な技術になってくる」(JAXAの山川宏理事長)。

探査機「かぐや」などで得られた詳細な月面の地形データと「はやぶさ2」などで培った画像照合技術が基になった。だが着陸動作は「はやぶさ2」で実績のある小惑星と違い、高度な制御とともに、強い重力に抗して降下しなければならないため逆噴射に大量の燃料が必要で、やり直しが利かない「一発勝負」。

昨年には日本の民間企業アイスペースの探査機が最終降下で月面に衝突し、着陸に失敗。一方、SLIMは予定通りのコースで降下し約20分で軟着陸した。着陸精度の確認には約1カ月かかる見込みだが、月のほか比較的重力のある天体探査の基礎となるものであり、今回、着陸を成功させた意義は大きい。

機体に張った太陽電池で発電できないトラブルは、日陰に着陸したか、太陽光が当たらない姿勢になった可能性があるという。着陸目標地点がクレーター近くで15度の傾斜地となっているため、SLIMは初めに主脚で一度接地してから、機体を前方に回転させる「2段階着陸方式」を採用した。その影響かどうか検証を待ちたい。

バッテリーで短時間しか稼働できなくなったが、欧州宇宙機関(ESA)の小型探査機が彗星に着陸した際、岩の陰に入って太陽電池で十分発電できず、バッテリー切れで休眠となったものの、彗星(すいせい)の太陽接近に伴い発電して通信が復活した。SLIMも太陽との位置関係が変わることで復活は可能だという。

使命完遂へ完全復活を

SLIMはバッテリーによる動作で、降下中や着陸後に取得した飛行データなどを正常に送信。これにより、月面着陸の成功が分かったわけだが、搭載していた2台の小型探査車(ローバー)の投下にも成功した。

SLIMはこれまでより軽量な月惑星探査機システムを実現し、その高頻度化に貢献することで新時代を築くものと言える。使命完遂へ、まずはあらゆる方策を駆使して完全復活を遂げてもらいたい。

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