経済安全保障上の機密情報を取り扱う資格者を政府が認定する「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度の創設に向け、政府の有識者会議は、機密情報の漏洩(ろうえい)や不正取得の罰則について特定秘密保護法が定める懲役10年以下と同水準が適当だとする最終案をまとめた。
これまでは、海外から情報漏洩への懸念が示され、日本が先端技術に関する共同研究などに参加できないケースがあった。制度創設でこうした点の改善が期待される。
適性評価制度の創設へ
適性評価制度は、機密情報の取り扱いを認める公務員や民間人を審査し、資格を与える仕組み。人工知能(AI)や量子技術などの情報に触れることができる企業幹部や研究者らを明確にすることで、軍事転用可能な技術などの情報漏洩を防止するものだ。
最終案は、サイバー攻撃対策やサプライチェーン(供給網)などに関する機密情報を重要度に応じて複数段階に区分。上位2段階の「トップ・シークレット」「シークレット」を漏洩した場合の罰則について「特定秘密保護法の法定刑と同様の水準が適当」と明記した。
特定秘密保護法では、外交、防衛、スパイ防止、テロ防止の4分野に関する特定秘密を漏洩すると最高10年の懲役が科される。適性評価制度の創設は秘密保護の対象を経済安保にも拡大するもので妥当だ。
資格を付与する対象者の身辺調査は本人の同意を得た上で行う。調査項目は犯罪・懲戒歴や精神疾患、飲酒の節度などで、調査結果は身辺調査を実施する行政機関が一元的に管理する。政府は26日召集の通常国会に新たな法案を提出する。
適性評価は個人情報保護の観点から、2022年5月に成立した経済安保推進法には盛り込まれなかった。しかし近年は、「ファイブアイズ」と呼ばれる枠組みで機密情報を共有している米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国や欧州主要国などの防衛、情報関連企業から製品の発注や共同研究を持ち掛けられる際、日本企業に機密保持の適性評価を求める事例が増えている。
法制度を整備しなければこうした局面で支障が生じ、日本企業の競争力が低下しかねない。このため政府は、22年12月に改定した国家安保戦略に「セキュリティー・クリアランスを含む日本の情報保全の強化に向けた検討を進める」と明記。岸田文雄首相は23年2月、法整備の検討を高市早苗経済安保担当相に指示した。
日本の周辺では、覇権主義的な動きを強める中国や核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮、ウクライナ侵略を続けるロシアなどの脅威が高まっている。先端技術が漏洩し、こうした国々に軍事利用されることがあってはならない。一日も早い法案成立を求めたい。
スパイ防止法制定を急げ
ただ機密情報を守るには、適性評価制度の創設だけでは不十分であり、外国のスパイ行為そのものを取り締まるスパイ防止法の制定が欠かせない。政府は制定を急ぐとともに本格的な防諜(ぼうちょう)機関も設けるべきだ。