自民党は派閥の政治資金パーティー収入裏金事件により政治家が逮捕される事態の中で、岸田文雄首相を本部長とする政治刷新本部を設置し、再発防止と政治改革の議論を行っている。重要なのは不正をなくし透明化を図り、裏金のない政治資金の運用を徹底することだ。
勢い増す派閥解消論
同党が全所属国会議員を対象に開いた政治刷新本部の議論では、派閥の存続論と解消論が主要な争点になっている。裏金問題が浮上し、政治資金パーティーは派閥だけでなく与野党とも新年会を含め自粛しているが、これまではさまざまな政治資金パーティーが行われてきた。
パーティーも大臣就任祝い、選挙前の決起集会的な意味合いを持つ「激励する会」など政治家個人のために行われるものもある。しかし、目下、派閥の政治資金収支報告書の不記載に対する告発を受けて東京地検特捜部が捜査に乗り出したため、派閥を“諸悪の根源”のように見立てて派閥解消を目的化した議論が勢いを増している。
しかし、大事なのは政治資金の透明化を追求し、裏金を作ることも使うこともできない、使う必要もない政治を行うことではないのか。それこそ政治の刷新と言うものだ。政治家個人であれ、政策集団(派閥)などグループであれ、党であれ、政治活動のための資金を調達することは不可欠だ。法に則(のっと)っていれば派閥の資金集めもその中の一つにすぎない。
かつてリクルート事件や東京佐川急便事件など自民党実力者を巻き込む政治疑惑でも派閥政治が問題視され、当時の政治改革の議論は次第に選挙区に複数の定数がある中選挙区制を変える方向に流れた。選挙区で同一政党の複数の候補が当選しなければ与党となり得ず、結果、自民党に複数の派閥ができ、国政選挙と党総裁選挙を巡り派閥間で熾烈(しれつ)な競争があることから「カネの掛かる政治」となったのは事実である。当時は中選挙区制が“諸悪の根源”とされた。
そのために衆院選で政策中心の党営選挙を実現し、政権交代システムを機能させるため現行の小選挙区比例代表並立制が導入された。しかし、今般の裏金事件が起きていることは、制度を変えることが必ずしも政治改革の実をもたらすものではないことを示している。
しかも、かつての選挙制度の改革には政権を巡る政治的な思惑もあり、政界再編成が同時進行した時期でもある。派閥を巡る議論にも自民党内の各派各議員の政治的思惑が色濃いとみえる。それよりも、集めた政治資金から裏金を作って、その使途も闇に消えるような不正を許さぬ同党の断固たる決意を形にすべきだ。厳罰をもって対処しなければ問題は繰り返される。
支持伸びぬ野党は猛省を
裏金事件では自民党安倍派に所属していた池田佳隆衆院議員が、特捜部に逮捕された。同党は不退転の決意で政治の刷新をしてほしい。一方で、この状況でも支持率が上がらない立憲民主党など野党は猛省すべきではないのか。政権交代の恐れがないことは、小選挙区比例代表並立制に選挙制度を変えた政治改革の失敗である。