【社説】陸自靖国参拝 「政教分離に抵触」は的外れ

陸上自衛隊の小林弘樹陸上幕僚副長が平日に公用車で靖国神社(東京都千代田区)に行き、部下と参拝したことが問題視されている。小林氏側は仕事始めの安全祈願が目的だったとしており、一体何が問題なのか理解に苦しむ。背景に「政教分離」に対する誤解があるとすれば看過できない。

幹部らが安全を祈願

小林氏は休暇を取って公用車で靖国神社に向かい、現地で陸自幹部ら数十人と合流して参拝した。参加したのは小林氏を長とする航空事故調査委員会の関係者で、2023年4月に沖縄県・宮古島周辺で起きた陸自ヘリコプター事故の調査にも当たっている。安全を願うのは当然の思いだと言えよう。

ところが防衛省は、自衛隊の宗教関与が疑われるような参拝や、隊員への参加強要を禁じる1974年の事務次官通達に違反する可能性があるとして調査している。木原稔防衛相は「判明した事実関係に基づき厳正に対処していく」と語った。

だが神社で安全を祈願するのは日本社会の一般的慣習で、宗教関与とするのは無理がある。陸自幹部らの靖国参拝を「憲法が定める政教分離の原則に抵触する」と批判する向きもあるが、的外れだと言わざるを得ない。

政教分離については、津市が体育館の起工式を神式で挙行したことが問題となった1977年の「津地鎮祭訴訟」の最高裁大法廷判決が規範となる考え方を示している。判決では、起工式は工事の安全を願う世俗的なものだとして合憲とする一方、「目的が宗教的意義を持ち、効果が宗教に対する援助、圧迫などになるような行為」については違憲となるとの「目的効果基準」という判断枠組みが用いられた。以後の訴訟もこれに基づく判断が下されている。

小林氏らは靖国神社の「教義」を「布教」したり、他の宗教を「圧迫」したりしようなどと考えたわけではあるまい。公用車を使用したのも、能登半島地震という非常事態への対応という意味で、自衛隊幹部として当然のことだ。これを問題視するのでは、被災地支援への本気度が疑われるのではないか。

靖国神社が軍国主義の象徴のようなイメージを一部で持たれていることも、陸自幹部らの参拝が批判を浴びている一因だろう。在日中国大使館は「歴史の正義を公然と冒涜(ぼうとく)し、被害国の民衆の感情を深く傷つけた」として「断固反対」との報道官の談話をサイトに掲載した。

しかし、靖国神社は決して戦争賛美の場ではない。明治維新以降の戦没者246万6000余柱の「み霊」が祭られた追悼施設だ。米国にも戦没者を慰霊するアーリントン国立墓地があるように、どこの国でも国難に殉じた人たちには最大の敬意が払われている。

首相は英霊に感謝捧げよ

周辺諸国や一部メディアによる批判の影響で、首相の靖国参拝が2013年12月の安倍晋三首相(当時)を最後に途絶えているのは残念だ。靖国神社に祭られた英霊のおかげで戦後の日本は平和と繁栄を手にすることができた。岸田文雄首相は堂々と参拝し、英霊への感謝を捧(ささ)げるべきである。

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