東京・羽田空港で発生した日本航空と海上保安庁の航空機の衝突炎上事故では、海保機が管制官からの指示を誤認し、日航機と管制官も滑走路上の海保機を認識していなかったとみられている。
再発防止には、こうした人的ミスを防ぐとともに、万一ミスが生じた場合も事故につなげないシステムを整備することが求められる。
管制官の指示を誤認か
事故では、日航機の乗客乗員379人全員が脱出し、うち15人が負傷。海保機は搭乗していた6人のうち5人が死亡し、脱出した機長も全身やけどの重傷を負った。海保機は能登半島地震の被災地に物資を届けるため新潟に向かうところだった。一歩間違えれば、さらに多くの死傷者が出ていた可能性がある。
交信記録によると、管制官は海保機に「滑走路停止位置まで走行してください」と指示。進入許可が出た記録はなかったが、海保機は停止位置を超えて滑走路に入っており、指示を誤認したとみられる。一方、誤進入をモニター上で管制官に注意喚起するシステムは正常に作動しており、管制官が見落とした可能性がある。日航機の機長らも、衝突まで約40秒間、滑走路上に停止していた海保機を「視認できなかった」と証言している。
識者によれば、航空機の事故が一つのトラブルで生じることはほとんどない。今回は複数の人的ミスが重なって起きたと言えよう。
被災地を支援する海保機は、民間機よりも優先的に離陸する予定になっていた。過去に沖縄・那覇空港で航空自衛隊機が滑走路に誤進入したケースでは、緊急発進(スクランブル)しようとした空自の編隊長らが、時間の制約による焦りから判断ミスを犯したと指摘されている。こうした点の検証も欠かせない。
国土交通省は、管制官から航空機に出発順を伝えることを当面停止するなどの緊急対策を公表した。海保機は出発順を「ナンバーワン」と伝達された後、滑走路に進入しており、誤認を招いた可能性があるためだ。
このほか、滑走路手前の停止位置標識の塗装を認識しやすい色に変えたり、管制業務で滑走路への誤進入を常時モニターで監視する人員を配置したりすることなどを盛り込んだ。管理体制の改善や強化に取り組むことで、安全性を一層向上させる必要がある。
ただ誤進入があった場合、モニターは滑走路や航空機を黄や赤などの色で表示して知らせるが、音声は出ない。危険を察知するため、視覚と聴覚双方への警告機能を備えるべきだ。
英航空情報会社によると、羽田は2023年、世界3位の「混雑空港」だった。発着回数は多い時で1時間に90回に上る。こうした過密なダイヤが事故につながったとすれば、管制官の負担を軽減する措置も講じなければならない。
有識者委は徹底検証を
国交省は有識者らによる事故対策検討委員会を設け、近く初会合を開催する。今夏に中間とりまとめを公表する予定だ。なぜ事故が起きたのか徹底的に検証し、効果的な対策を提言する必要がある。