台湾の総統選挙では、中国の「台湾併合圧力にNO」を突き付けてきた民進党の頼清徳副総統が勝利を収めた。
民進党が3期連続政権
21世紀の台湾では、2期8年ごとに民進党政権と国民党政権が入れ替わった。有権者は、特定政党による長期政権リスクを回避してきた格好だ。
その長期政権へのリスクヘッジ論からすると、今回の総統選は国民党にお鉢が回ってきてもおかしくなかった。ところが、民進党が3期連続の政権維持を果たした。中台統一に本格的に動き出した中国を警戒する台湾の人々が、対中融和に傾く国民党に政権を託すリスクの方を重く見たためと考えられる。
一方、総統選と同時に行われた立法委員(国会議員、定数113)選では、52議席を獲得した国民党が第1党となり、51議席にとどまった民進党は少数与党に転落した。行政と立法の「ねじれ」状態となる民進党政権は新政権が発足する5月以降、予算案や法案の審議などで野党の壁を乗り越えられないまま、政治が足踏みし内政や社会の混乱を招くリスクが出てくる。それを中国は好機とみて、内政の矛盾を突いてくることは容易に想像できる。
中国は今回の総統選で、国民党が勝利するよう画策してきた経緯がある。国民党政権ができた暁には、悲願である中台統一へと台湾内部から駒を進める懸念があった。
台湾の人々は投票という民主的手法で、中国の目論見を打ち砕いた格好だが、選挙結果に表れたその民意を真摯(しんし)に受け止め反省する中国ではない。逆に捲土重来とばかりに中国は、内政の矛盾を突くことで民進党政権への信認度低下を画策し、北京の了解なしには内政が動かない政治的金縛り状況をつくり出すことで中台統一への道筋をつけてくる可能性がある。
何より台湾の後ろ盾になっている米国の東アジアにおける軍事的パワーが低下し、台湾海峡に軍を進めれば中台統一を実現できると確信すれば、いつ中国人民解放軍が動くか分からない実情もある。中国はそのために複数の空母を造り、強襲揚陸艦や戦艦など海軍力を整備してきている。昨今の軍上層部の更迭劇なども、共産党中央軍事委員会から命令があれば一糸乱れず150万人の兵卒を抱える人民解放軍が動けるよう、指示命令系統を再編成したとされる。
そうした中国の赤い野心に立ち向かうには、日本や米国の強力なバックアップが必須だ。台湾海峡の波が高くなり航行の自由が失われると、エネルギーを中東原油に頼り諸外国との貿易で経済を保っているわが国はたちまち困難に直面する。
また、台湾が戦火に巻き込まれれば「産業の米」となった半導体を台湾企業に依存しているわが国の産業も混乱を余儀なくされる。まさに台湾の危機は日本の危機であり、日台は運命共同体だ。
中国に責任ある行動迫れ
日米を含む国際社会は、中国が武力や政治的威圧、社会的工作などで台湾を揺さぶることがないようしっかり監視し、中国に大国としての責任ある行動を迫ることが肝要となる。