日本学術会議の組織改編を巡って、政府は「国から独立した法人格を有する組織とする」との方針を示した。学術会議の課題として、会員選考などにおける透明性のほかに、軍事忌避的な姿勢が大学などの研究に悪影響を及ぼしてきたことが指摘される。こうした体質を改善する抜本的な改革が必要だ。
徹底的な透明化が不可欠
政府は法人化に向けた基本方針として、会員選考や運営の透明性確保のため外部有識者による評価委員会を設けること、財政基盤の多様化を目指しつつ国も必要な財政的支援を継続して行うことなどを挙げている。
現在の学術会議は国の特別機関の一つで、会員選考では学術会議側が次期候補を選んで首相が任命する形を取っている。しかし会員が特別職国家公務員に当たることや、運営にかかる約10億円の年間予算を全額国が負担していることを鑑みると、現行の選考方法は「閉鎖的」(菅義偉前首相)とも指摘されてきた。
学術会議は「独立性の担保」を理由に、第三者が選考に関わることに反対し続けている。これに対し政府の有識者懇談会は、法人化によって国の機関でなくなっても、わが国の科学者を内外に代表するという「責務と特権」を踏まえると「会員の選考を組織内だけに閉じたものとせず(中略)選考過程の徹底的な透明化が、組織としての正統性と国民の理解・信頼の確保という観点から不可欠」との見方を示す。
また政府に勧告や助言を行う立場であることからも、国から独立した機関であることが健全だ。当然、基本方針にもある財政基盤の多様化への努力が必要だが、外部からの資金調達に当たっては、中立性をどう保つかといった課題もあり、国費に頼る割合が大きくなるのは当面は仕方ないだろう。それ故に、第三者による関与は受け入れるべきだ。
将来的により広い支援を受けるためには、学術会議が国民生活やわが国の学術界に資するものであるという信頼が不可欠でもある。その意味で、これまで学術会議の軍事忌避的な体質が大学などの研究を委縮させてきたことは否定できない。
学術会議は2022年に軍事と民生双方で活用できる「デュアルユース」の研究について「単純に二分することはもはや困難」と容認する見解を示したが、1950年と67年に発表した「軍事目的の科学研究を行わない」との方針は維持されたままだ。また2017年に発表した防衛装備庁の助成制度を批判する声明を受けて、多くの大学が同制度に応募しない方針を掲げるなどした結果、大学の研究者からの応募が激減した。特定分野の研究の発展を妨げかねない姿勢について反省と改善の意思を示すべきだ。
課題解決に積極的役割を
有識者懇談会では、社会課題の解決のために「学術会議がより積極的な役割を果たすべき」だとの意見も示された。昨年の東京電力福島第1原発の処理水海洋放出の際、特に科学的視点が必要とされたにもかかわらず、わが国の科学者を国内外に代表する機関としての動きが十分に見られなかったことは残念だ。