自民党安倍派のパーティー収入不記載事件で更迭された萩生田光一政調会長と高木毅国対委員長の後任に、無派閥の渡海紀三朗氏と浜田靖一氏がそれぞれ就任し、自民党新体制がスタートした。
失われた政治への信頼回復が最大の課題で、政治改革に取り組んできた渡海氏への岸田文雄首相の期待は大きい。だが、政調会長のポストは外交、安全保障、経済など国益に直結する分野の政策立案責任者であることも忘れてはならない。
公明党説得の役割も
岸田首相は先の4閣僚の交代に続き安倍派一掃人事に踏み切った。渡海氏は地味な性格で、離党歴を持ち、リクルート事件の際には大胆な党改革を目指して党内若手が立ち上げた「ユートピア政治研究会」の主要メンバーだった。その後も「政治とカネ」などの問題に取り組んできた。その意味では「適材」人事だと言える。
渡海氏は就任に当たり、新たな「政治改革大綱を策定すべきだ」とし、政治改革に向けた会議体の立ち上げを岸田首相に求めた。それを受けて首相は、麻生太郎副総裁ら党幹部6人と会談し、年明けにも党内に新たな組織を発足させることで一致した。今や安倍派の問題が二階派にも広がり、自民党全体の問題として対処しなければならない状況に陥っている。
東京地検特捜部の捜査状況を踏まえながら進めることになろうが、政治資金規正法の改正、政治資金パーティーのキャッシュレス化、派閥パーティーへの党本部の関与などのテーマはすぐにでも議論を始められるはずだ。渡海氏を中心に早急に政治改革断行本部を発足させ対処すべきである。
ただ、忘れてならないのは、政調会長は政治改革に取り組むだけではいけないことだ。渡海氏は教育、科学技術に精通する文教族の重鎮でもあるが、与党・自民党の政策立案の最高責任者となった以上、幅広く全ての重要課題に対処していかねばならない。
前任の萩生田氏は安倍外交を継承し、日・グローバルサウス連携本部の本部長として東南アジア諸国連合(ASEAN)とインド太平洋における安全保障上の課題解決に取り組み、台湾との関係を強化した。憲法改正への意欲が強く、総合経済対策でも提言を行った。
与党・公明党との関係改善にも熱心だった。高木陽介政調会長と円滑な関係を築き政策調整力を発揮した。一時、公明と険悪な仲になった茂木敏充・自民幹事長の失点を補い両党関係を修復に向かわせたこともある。
公明党は現在、国際共同開発する防衛装備品の第三国輸出を巡り、政府・自民党内にある早期容認論を牽制(けんせい)している。政府が来年2月末までに容認の結論を出すよう与党側に求めたことに対し、期限にとらわれないとしている。安全保障や憲法改正などで公明を説得する役割も担わねばならないのだ。
「適所」人事に疑問符
岸田首相が目前に飛び交う火の粉を振り払うことのみを念頭に置いて渡海氏を起用したのであれば、「適所」人事だったかには疑問符が付こう。